13:全てが流れつく地
「うぅ……」
数日後、船に揺らされながらも甲板で兄貴から預かった資料に目を通しているとシュリンが柵に持たれ掛かる様にして呻く。
「大丈夫か?」
「……少し気持ち悪い」
背中をさすりながら近くで見ると顔色はあまり良くない、シュリンは船酔いするタイプでヒューム大陸に来る時もこうなっていた。
「セレナ、シュリンを部屋に連れてってやれ」
「はい、酔い止めを飲んで休んでもらいます」
セレナが慣れた様子でシュリンを介抱する、些か心配だがああいった世話や気遣いが上手いセレナが付いていれば大丈夫だろう。
「あんなに飛び回ったりするのに意外よね」
「まあ自分で動くのとはまた違うのかもな、俺はそういうのはあまりないが」
アリアにそう返しながらも資料をしまう、その時に手に触れた小刀をなんとなく手に取った。
それは特に特徴のない小刀だった、黒塗りの鞘と柄に鍔と鯉口が金でできている。
少しだけ抜くと現れた刀身は日の光を反射して白銀に輝く、込められた想いを示す様に刃の冷たさではなく暖かさを感じた。
「それってベルクのお母様の?」
「ああ、先祖達の魔力が込められているらしい」
資料によれば祖先は国を出てしばらくヒヅチを放浪しており、放浪の先で伴侶を見つけて残った者とヒューム大陸に渡った者がいるそうだ。
(だが……)
資料を読んでいると一族は国を出たのではなく国を追放された様に思える。
一族が国を出る直前に新たな術師が召し抱えられる等の記録が残っている。
時の流れや情勢と言われてしまえばそれまでだがどこか引っ掛かりを覚えた。
「セルク」
「どうした?」
思案に暮れているとラクルが声を掛けてくる、考えるのをやめて振り向くとラクルが望遠鏡を片手に船の先を示した。
「ヒヅチが見えてきた、この風の強さなら着くのは2、3時間だそうだ」
望遠鏡を借りて示された先を見る、そこには山々が聳え立つ島の影が映っていた。
―――――
港に着いて荷物を持って降りる、止まってる船の数や人数からして民が使うものではなさそうだ。
「この港は民は使ってないのか?」
「そうですね、基本的に港は三つあって商人や漁師が使う港町、数は少ないですが軍船用の港、そして私達が使ったり客人を送迎する為の港が此処になります」
「人は少ないのか?」
「そうですね……他のふたつよりは常駐の兵と船を整備する船乗りがいるくらいです」
「そうか……ラクル!」
叫ぶと同時に俺とラクルが前に出て剣を抜く、風を切ってヒノワに迫る刃を俺とラクルが弾き飛ばした。
「なっ……!?」
ヒノワを囲う様にアリア達が守りに入るのを確認しながら言い放った。
「出てこい、血の臭いで丸分かりだぞ」
そう告げると少しして黒装束の者達が姿を現した……。