12:出発前
ヒヅチへ向かう事が決まった俺は自室で準備を行っていた。
机の上には小剣にナイフ、様々なサイズの魔石に各種ポーション、魔石に術式を刻んだりする器具や魔道具等が並べられており、ひとつひとつを整備していく。
カオスクルセイダーを手にしてからこの予備の小剣とナイフは使わなくなったが手入れは怠っていない。
小剣とナイフの手入れを終えて魔道具の点検を行っていく、魔力を通して動作と魔力が正常に流れるかを確認していく。
ポーションや包帯等の消耗品を新しい物に取り換え、バッグに納めていく。
棚から保管していた魔石と火薬を取り出し、魔石には術式を刻んで使い捨ての魔道具を造る。
ある程度一段落すると火薬を特注で造らせた金属の筒に入れ円錐形の弾を込めて棒で突き固める。
数本ほど用意したところでドアをノックされたので開けてみるとヴィクトリアが立っていた。
「準備に余念はない様だな」
「ああ」
「それにしても相変わらず飾り気がないな、絵画のひとつでも飾れば良いだろうに」
ヴィクトリアが部屋を見回しながら微笑む、俺の部屋には儀礼用の剣が壁に掛けられてるくらいで後は本と一緒に道具や素材をしまう棚や作業机、そしてベッドがあるくらいだ。
「調度品の必要性は理解してるがな……」
「冗談だ、私達はお前のそういうところとて好いている」
「それでもこのままにするのはな……。
それで、どうしたんだ?」
ヴィクトリアが冗談を言うために来たのではない事は分かっている。
そう聞くとヴィクトリアは笑みを深めて答えた。
「何、明日からヒヅチに向かうならば皇配としての役目を果たしてもらおうと思ってな」
「……」
「アリア達とはもう相談してある、先に子を宿すのは私に決まった」
「問題ないのか?」
「ああ、この一年でようやく体制も整ってきた。
アリア達はまず私が産んでからという事で話はついている」
「ならまずシャワー浴びさせてくれ」
「私はこのまましても構わんが?」
「火薬と汚れがついたまま抱く訳ないだろ、綺麗な体が汚れる」
「ふふ、お前のそういう紳士なところも好きだぞ」
その後、身を清めた俺はヴィクトリアが確実に孕むであろうほど抱き潰し、アリア達にも相手をしてもらった。
―――――
翌日、出発する為の身支度を整えていると通信水晶が反応したので手に取ってみると親父の顔が映し出された。
「親父?」
「久しぶりだな、バドルからヒヅチに向かうと聞いてな」
「ああ、かなり厄介な事が起きそうだからな」
「ふむ……それならこちらで保管しているヒヅチの資料と小刀をバドルに預けておく。
ヒヅチに向かう途中で受け取ると良い」
「資料と小刀?そんなのが家にあったのか」
「資料はカンナの祖先がまとめたものだ、小刀はカンナが母親……お前達からすれば祖母から受け継いできたものらしい」
「……良いのか?母さんの形見って事だろそれ」
「小刀はお守りとして祖先から受け継がれてきたものだと聴いている、カンナの子でこれから戦いに行くセルクが持つべきとバドルと話し合って決めた」
それを聞いて少しだけ頬が緩む、まだ親父との距離は空いてこそいるが……少しずつ向き合えてきてる気がした。
「……ありがとな、親父」
「……ああ、気をつけて行ってこい」
俺がぶっきらぼうに答えると親父はそう言って通信を切った。