22:不穏な気配(バドルside)
再びお兄ちゃん視点です
一方、ベルガ王国では…。
バドルはいまや王城にて宰相や各大臣達、更には王の相談役という役職を得ていた。
「バドル様、お手紙が届きました」
執務室で書類の確認とサインをしていると執事がノックをして入ってくる。
ありがとうと言って手紙を受け取るとクラングルズ連合国の冒険者ギルドからのもので急いで封を開けた。
手紙の内容はセルク…今はベルクと名乗っている弟の冒険者としての報告書だった、セルクが国を出た後に冒険者として登録した見た目の特徴が一致する者を調べ上げ、そこから冒険者ギルドに報告してもらう様にしていた。
冒険者は国や貴族などから指名されたり専属として依頼を受ける事もある、そして貴族達もそういった有能な冒険者を見つける為にある程度の情報を冒険者ギルドに申請して得る事が出来る。
政治的干渉を拒むクラングルズでも正規の手順を踏んで申請すればこの程度はやってくれる、なにせその冒険者がどんな依頼を受けてどれだけ達成してきたか等は依頼をする上で重要な判断要素なのだからそこを適当にしてしまえば信用を損なうのはギルドも理解している。
だからこそ冒険者の情報…名前や等級、受けた依頼と達成率等の情報は開示されている、情報を得たとしてもそこからコンタクトを取り依頼を受けるかどうかといった交渉は当人同士で決められるのだから。
「白銀等級に昇格か…普通であれば早くても五年は掛かると聞いていたんだけど…流石はセルクだね」
手紙にはセルクが突然変異したボスを倒して先に依頼を受けていたパーティを助けた事、その功績を評価されて白銀等級に昇格された事が記されていた。
弟がグルシオ大陸の過酷な環境に負けず、より強くなって評価されている事に思わず口角が上がってしまう、未だ心配なのは変わらないが自分の道を見つけて進んでいるのは兄として誇らしいものだった。
(父上達にも知らせてあげないと…そろそろこちらも一段落着きそうだから領地に戻るのも良いかも知れないね)
侯爵位はバドルに継がれてこそいるが領地は父のダランが代行をしてくれている、あの日から父上は落ち込んでいたが「せめて出来る事を、分かる事はやらせてくれ」と代行を買って出てくれた。
家出されてからセルクの安否を聞くと少しだけ安堵した雰囲気が出る様になったのは気のせいではないだろう。
「…家出といえばアルセリア第三皇女も失踪してから一年か」
隣国のミルドレア帝国の三姉妹、末妹のアルセリア皇女も置き手紙を残して国を出たのはかなりの騒ぎになった。
手紙には“獅子を探してきます、皇族としての特権や籍等は破棄してください”とだけ書かれていたらしい。
獅子とはミルドレアにおいては特別な動物なのもあっておそらく何らかの比喩表現なのだと思うがそれがなんなのかは確証は得られてはいない。
「最後の目撃情報からしてグルシオ大陸に向かった可能性があるらしいけど…もしかしたら冒険者になってセルクとすれ違ってたりしてるのかな」
突飛な想像に思わず笑ってしまう、いくらなんでも広大なグルシオ大陸で出逢うなどそれこそ天文学的確率だろう。
手紙を仕舞って再び報告書に目を通す、その中のひとつに眉をしかめた。
「魔物被害の増加に貴族を中心に怪しい者が接触している…か」
魔物の被害は微々たる物だがそれでも増えてきている、民の不安も少しずつ増している様で冒険者への依頼が増えているようだ。
貴族に接触してきているのは商人らしい、報告を上げてくれた者曰く、魔物被害を減らす為にも兵力を高めないかと話を持ち掛けてくるそうだ。
すでに多くに接触しているらしく大半は断っているがもしかすると秘密裏に話に乗っている者もいるかも知れない。
「問題は接触しているのはこの国だけ、なのか」
確証もなく、関連性も掴めてない…だが不穏な気配が背筋を走った気がした。
そして1ヶ月後、ミルドレアからもたらされた報告に思わず書類を取り落とすくらい呆然とする事になった。
どんな報告がされたかは二章をお楽しみに(^-^)/