11:回答
(ヒノワside)
「結論から言えば返還に応じる事は出来ん」
翌日、再び対談の席についた私にヴィクトリア皇帝はそう告げた。
「まずザンマは既に担い手が居り、その者は重要な守護の役割を与えられている。
カムツヒは担い手は居らぬが対価として出された物では釣り合わん」
「……仰る通りです、ですがゴモンにはあれ以上のものはありません」
「だとしてもだ、更に言えば返還したとして此度の件をそちらだけで解決出来るか?仮にゴモンが敗れ奪われる事があれば我等は貴重な神器をふたつも失うに等しい訳だ」
……皇帝の言う事は全て正論だ、唯一取り引きしていたと言ってもそれは属国になったベルガ王国だけでミルドレア帝国と関わりがある訳ではない。
私達が滅ぼされてオヅマがヒューム大陸まで攻め入ったとしても、黄泉の門が開いたとしても帝国ならなんとかしてしまうだろう。
帝国には皇帝を含めた神器の担い手達に文字通り世界を救った最強の騎士がいるのだから……。
「故に返還ではなく貸与となる」
「……え?」
「そして此度の件が解決し、返されるまでは監視役として黒嵐騎士団とザンマの担い手であるラクル=ヴァリアントを派遣させてもらう。
解決の暁には更なる対価を払って貰うがその裁量はベルクに委ねる……以上が我等の答えだ」
絶望しかけたところで投げかけられた言葉に思わず言葉を失ってしまう、それは一瞬だけそうなればと妄想してしまっていたものだったからだ。
「……よろしいのですか?」
「他の国でどれだけ人が死に、悲劇に見舞われようとどうでも良い……だが切り捨てた事で我が国の民達が危険に晒されると判断したが故の事だ。不服か?」
「滅相もございません、どうか……どうかお願いいたします」
その場で平伏しながら頭を下げる、この場でなかったら私は自分の頬を思いっきりつねっていただろう……。
―――――
(ベルクside)
時は昨日の対談の後まで遡り……。
「ヒヅチに直接出向くと?」
対談を終え、どうするかを話す中で俺の提案を聞いたヴィクトリアに頷く、そして考えを口にした。
「カオスクルセイダーとハイエンド、それにザンマの警告とヒヅチで起きてる事からしてこの異変はイル・イーターに匹敵するものになる可能性がある」
「……」
「今回の被害がヒヅチで収まるならまだ良い、だが放っておけば帝国、引いてはヒューム大陸全体にまで火の粉が及ぶと俺は思う」
ヴィクトリアを筆頭にアリア達と称号騎士、そして通信水晶越しに兄貴が話を聞いている。
「レアドロップの警告ですか、無視する訳にはいきませんな」
「だが武力介入するにしてもどれだけ連れてくんだ?多くても少なくても面倒になると思うぜ?」
「いえ、向かうのは黒嵐騎士団とラクルだけです」
「ふむ……ですが兵はどうするのですかな?」
「ゴモンの兵を従わせます、そういう戦いは一年前にもやった事がありますから」
俺の言葉に兄貴が苦笑を浮かべる、そしてロスフォールとボルガが頷きながら同意した。
「適任はベルク殿達しかいないでしょうな、今回の様な特殊な状況に置いての対応力は随一かと」
「うむ、下手に軍を派遣するよりは帝国の被害も消費も少なく済むでしょう」
他の騎士達や重臣も差違はあれど肯定する、そしてヴィクトリアが場を静めさせると決を取った。
「異論はない様だな、ならばベルクの意見を総意として採用する」
こうして俺達はヒヅチに向かう事が決まった。