10:黄泉の門
「地獄、いや黄泉の門か……穏やかな話ではないが顕現するとどうなる?」
「伝承によれば門が顕現する時点では施された封印によってまだ猶予があります。
ですが門が顕現してから術を使い続ければ封印は解けていき、その際に漏れ出る黄泉の力も増えていくのです」
「それが魔を活性化させる、という事か」
「はい、そして漏れ出た力は徐々に侵食を始めます。
そして門が完全に開いた時……この世界と黄泉の世界が繋がります」
重臣達の息を呑む気配が伝わってくる、ヒノワの話を聞いてろくでもない事が起きると容易に想像できるからだろう。
「門が完全に開けば強大な黄泉の魔物達が現れ、邪悪な魂達が解き放たれる事になります。
記録によればかつて門が開いた時にはヒヅチは滅亡してもおかしくないほどの被害だったと……」
「一国ではなくヒヅチそのものが、か……」
ヴィクトリアの問いにヒノワは頷いて答える。
口元に手を添えながらヴィクトリアは更に問い掛けた。
「状況は理解した、だとすればザンマとカムツヒはその門をなんとかする為に必要という事だな?」
「はい、ザンマとカムツヒ、そしてゴモンで受け継がれてきた呪玉ツクヨ……この三つの神器によってかつて顕現した黄泉の門は封印されました」
そう告げるとヒノワはリンに命じて細長い箱を持ってこさせる、大きさからして中身は刀だろうか?
「勿論ただでとは言いません、ザンマとカムツヒを返還していただけるならば代わりのものとして我が国で保管している業物をお譲りします」
「業物……!?」
業物とはヒヅチの国で造られる刀の中でも特に優れた物を指す、刀を使う冒険者はそれなりにいるが業物は他の大陸に出回る事がない。
ウォークリアの冒険者ギルドのマスターも使っていたのは名刀レベル……業物にはほど遠い。
「ふむ……ベルク、検分してみよ」
「承知しました」
ヴィクトリアにそう言われてリンから箱を受け取り開封する、納められた刀の鞘や柄は精緻な装飾が施されており確認してみたが呪いや術の類は掛かっていない。
「失礼いたします」
刀を手に取り鞘からゆっくりと抜いて刀身を露にする、光を反射する波紋と刃の美しさは文官でさえ息を呑んだ。
「……本物です」
刀の美しさもそうだが感じられる力もかなりのものだ、レアドロップにはあと一歩及ばないがそれでも内包されてる力は相当なものだと分かる。
「……」
ヴィクトリアは目を閉じてしばし黙っている、しばらく沈黙が続くとヴィクトリアは言葉を紡いだ。
「そちらの状況あいわかった。返答は明日の午前まで決める事を約束する。
部屋は用意してあるゆえ今日はもう休んでおくが良い」