9:交渉
宿で一泊してからヒノワと共に帝都に戻る、道中はヒノワ達の速度に合わせるのでそれなりの日数が掛かると思っていたがヒノワの護衛達は優秀なのが多く予定よりも早く進めていた。
宿で隠れていた者達……影と呼ばれる護衛達は今は普通の従者に扮して荷を乗せた馬車に乗っている。見かけこそ普通だが目線等は周囲を隙なく見渡しており有事の際にはすぐに対応出来る様にしていた。
「かなり気を張っているな」
馭者台で周囲を警戒しながらラクルが話し出す、馬車の中でアリア達と話すヒノワに聞こえないくらいの声で返した。
「ああ、だが警戒してるのは魔物だけじゃないな」
「俺達……ではないな」
「警戒しているのはヒヅチからの刺客だろうな」
トーアの宿で俺達に対しての殺気はなかった、だが話している時に感じ取った五人に加えて八人の影が後ろの馬車に乗っているが動きからして傷を負っている様だ。
既に一度襲撃されているのだろう、俺達と話す時にすぐ近くで隠れていたのは襲撃されて間もなかったからだと考えればやむを得ないと言える。
「話はある程度聞いたが……ヒヅチはかなり不安定な状況だな」
「ああ、それにそいつらが使う外法の術……聞いた限りだと向こうにもフィフスの様な奴がいるかも知れないな」
ラクルと話しながら考える、告げられた警告にヒューム大陸の異変、そしてヒノワが話してくれたヒヅチの状況……。
足らなかった欠片が少しずつ集まっていき、どうすれば良いかという答えが少しずつ形になっていく。
「ラクル、“……”」
現時点での俺の考えをラクルに伝えておく、ラクルは聞き終わると迷う事なく答えた。
「分かった、その時は任せてくれ」
互いに笑みを浮かべて拳をぶつけ合った。
―――――
道中で襲撃に遭うという事もなく数日掛けて帝都に戻る、ヴィクトリアとヒノワ双方の要望もあってすぐに対談が行われた。
「まずは遠路はるばるご苦労であった」
「労いの御言葉ありがとうございます、そしてこの場を設けていただいた事にも深く感謝致します」
ヒノワが帝国の礼を取って挨拶する、帝国の重鎮に囲まれた中でも毅然として対談する姿には感心する者もいる。
「それでは本題に入るとしよう、我が国で起きている異変……更にその異変の解決にはザンマとカムツヒが必要と書簡にはあったが相違ないか?」
「はい、そして事の仔細を語るにはまずヒヅチの状況を皆様にも知っていただく必要があります」
「良いだろう、聞かせてみよ」
ヒノワはヴィクトリアに一礼すると静かに語り始めた。
「ヒヅチは数多の国に分かれてこそいましたがお互いに相互不可侵の取り決めを行い戦からは遠ざかっていました。
……ですがオヅマの国が取り決めを破って周辺の国へ侵攻、外法の術を用いて喚び出した魔物達を従え今なおも版図の拡大しています」
魔物達を従える……それを聞いてフィフスを思い浮かべたのは俺だけではないらしく何人かは表情を険しくしていた。
「術の名は黄泉呪法……こちらの大陸で言う地獄に該当する世界の力を使役する術であり、使い続ければその世界の門が顕現する事になります」