8:既視感(ヒノワside)
「はぁ……」
ベルク達が部屋を出て離れていくのを感じとりながら緊張をほぐす為に息を吐く、護衛であるリンが用意してくれたお茶を一口飲むとようやく落ち着いてきた。
「お疲れ様でした」
「ありがとう……それでリンから見て彼等はどうだったかしら?」
はっきり言って一目見た瞬間飛び上がりたくなるくらい驚いた、全員が神器の担い手であるのもそうだがベルク様の神器から感じられる力は周囲を剣で囲まれる様な……竜の顎と目前迫ったかの如き重圧だった。
「率直に言ってしまえば驚嘆の一言です、神器がなしの勝負をしても勝てないでしょう。
……特に黒嵐騎士、彼に至っては私では勝負になるかすら怪しいです」
「ゴモン屈指の剣士である貴方にそこまで言わせるなんて……帝国はどんな魔窟なのかしら」
黒嵐騎士の存在は知っていた、そもそも一年前のあの時の光景はヒヅチに住む全ての者達も見ており今回の交渉の為に情報も集めていた。
だけど知識として知るのと面と向かって会うのではやはり違う、しかも一人いるだけで国を左右すると言われる神器の担い手と五人同時に相対して取り乱さず済んだのは自画自賛したくなるくらいの重圧だった。
「それに貴方達にまで気付くなんて思わなかったわ」
「……返す言葉もありません、完璧に気配を殺して伏せていたのですが」
潜伏していた影の一人が傍に下りて頭を下げる、彼等の潜伏技術はかなりのものなのにベルク様にシュリンという少女は彼等を難なく捉えていた。
「黒嵐騎士団……少数ながら国ひとつを陥落させる帝国最強の部隊と聞いていましたが偽りではないようですね」
もしも彼等の力を借りれたら……そんな考えが頭を過るが頭を振ってその考えを捨てようとする。
今回の交渉とて帝国からすれば不信感は拭いきれないものだろう、だというのに他国の争乱にまで介入してくれと頼むのは厚顔無恥としか言い様がない。
ザンマとカムツヒがあればあの術に対抗する事が出来る。
だからまずは今回の交渉をなんとしても成功させるのが第一だと自分に言い聞かせた。
「ですが姫様、ひとつ分からない事が」
「何かしら?」
「どうしてベルク殿にあの様な事を訪ねられたのですか?突然の事で正直肝を冷やしました」
「……」
リンの疑問に口を引き結ぶ、それは私があの重圧の中でも冷静さを失わなかった理由でもあるのだが根拠も何もなく聞きたくなってしまった事なのだから。
「……失礼な事を言ってるかも知れないけど似ていると思ったの」
仕草も、印象も、なにもかもが違うのにあの黒い髪と真っ直ぐな瞳がふとした瞬間に記憶の中のある人と重なった。
私に術と人としての在り方を教えてくれた人、ゴモンを当主と共に守り支え続けた師匠であり神器の担い手だった術師。
「お祖母様に……」