6:ゴモンの使者
翌日、俺達は兄貴からカムツヒを受け取ってラクルと共に港街へと出発した。
「セレナ、未来視はやはりないか?」
港街に向かいながら馭者台からセレナに聞いてみる、帝都を出発した時から頼んでいたのだがセレナは首を横に振りながら答えた。
「あれからトゥルーティアーと一緒に何度も試しているんですが駄目でした、まるで靄が掛かってるみたいに何も見えないんです」
「見えない……か」
トゥルーティアーの未来視が発動してないという事は世界が滅ぶほどの事は起きないという事だろうか?
だとしてもカオスクルセイダーとハイエンド、ザンマの警告を軽視する訳にはいかない。
「ルスクディーテ、なんか感じ取ったりとかしてないの?」
「する訳なかろう」
ルスクディーテが魔物の姿に戻りながら答える、俺とラクル……腰と背中の佩いている武器を見ながら続けた。
「我等は強大な力を有していようと魔物に過ぎん、縁もゆかりもない地の事など分かるものか」
お主もそうだろう?とルスクディーテがシュリンの方を見ながら言うとエイルシードが答えた。
「そうですね……私やルスクディーテは生まれた地であるグルシオ大陸の異変なら感じ取れるでしょうが他の大陸で起きる事は分かりません」
「……そう言えば会ったばかりのルスクディーテはカオスクルセイダーの存在を感知していたな」
「そうじゃ、今回の異変を感じ取れたのはザンマは生まれた地ゆえ、カオスクルセイダーとハイエンドはそもそも生まれかたからして我等と違うからであろう」
「そういう事なのですね」
話しながら考える、既にヒューム大陸にまで異変が起きてるとなるとヒヅチで何が起きてるかは分からないが少なくともこのまま放置という選択肢はないだろう。
「場合によっては……」
俺達が介入する必要もあるだろう……。
―――――
二日掛けて使者が逗留している港街トーアに着く、迎えを出すという書簡を先に送っているから後は使者がいる宿に向かうだけだ。
街頭は活気があり中には俺に似た黒髪の者達が着物と呼ばれるヒヅチ特有の衣服を纏っていた。
「ベルクで見慣れてはいたけど、ヒヅチの人は黒髪が多いのね」
「ああ、そもそも母さんの祖先がヒヅチの生まれだからな」
そんな事を話しながら歩いているとヒヅチの建築方式で建てられた宿に着く、受付で称号騎士の短剣を見せると受付の男は静かに頷いて案内を始めた。
「ヒノワ様、お迎えの方々が参られました」
お入りください、と返事があると男は静かに戸を開けて中に入る様に促す。
部屋に入ると奥には紅白の衣装に身を包んだ神官の様な雰囲気を纏って座る少女とその側で刀を腰に佩いた女が立っていた。
「名高き黒嵐騎士様直々にお出迎え頂きありがとうございます」
同年代と思しき少女が流麗に言葉を紡ぐ、亜麻色の髪を三つ編みにしてまとめており深い茶色の瞳は穏やかながらも強い意志と知性を感じさせる。
「お初に御目にかかります、私はヒノワ=ゴモン、当主より使者の命を受け参りました」
ヒノワはそう言って礼を取った。