3:ヒヅチの国
「ザンマとカムツヒ……まさかヒヅチが?」
「ええ、その中で唯一国交を開いているゴモンからの書状です」
ヒヅチの国は特殊な成り立ちをしている国だ、島の大きさはヒューム大陸やグルシオ大陸と比べると小さいが数十にも分かれた国同士で争っており一部を除いて鎖国を続けている。
便宜上ヒヅチの国とひとまとめにして呼んでこそいるが諸外国と交易を行っているのはアルクトスが言ったゴモンという海に面した国だけなのが現状である。
「召集を掛ける直前に送られてきた書簡には現状我等しか知らぬ筈の我が国で起きている事が詳細に書かれていた、それに加えて今のヒヅチの情勢もな」
「情勢?」
「ヒヅチではとある国が外法の術を用いて大規模な侵攻を始めているそうだ、その術の反動が大地を穢していき今や別大陸に伝播するほどのものになっているそうだ」
「外法の術……こちらで言う禁術の類ですな」
「しかしどうやって?ヒヅチは国の在り方から言っても間諜を仕込んでいるとは思えませぬな、あれから我々もその類への警戒は怠っていませぬ」
そう、ミルドレア帝国ではフィフスに襲撃されてからはヴィクトリアに忠実な者達による更なる警戒や策が実施されている。
更に言えばミルドレアからヒヅチまで連絡を取り合うにはベルガ王国と海を渡って行かなければならない、それだけ労力の掛かる連絡を取って察知されないのは不可能と言える。
故にこそ帝国の現在の状況を詳細に知っているゴモンの書簡は無視できないものなのだ。
「更に言えば近々使者を送る故に詳しい話をしたいとの事だ、使者は既にこちらに向かっており此方の返事があるまではヒューム大陸で待機するとな」
「なんと……だとすれば使者は既に?」
「交易船で着いている頃であろう、中々に動きが早い」
「……だとすれば急いで向かわなければなりませんね」
俺がそう言うと全員がこちらに視線を向ける、視線を受け止めながら発言した。
「ヒヅチから来たという事は彼等は現在ベルガ王国の港街にいるでしょう。
ザンマはラクルが担い手として、カムツヒはフィルネリアが研究の為に管理しています。
どちらもベルガ王国で保管されていると知られていたら強行手段に出る可能性がある」
「……確かにないとは言えませぬな」
「陛下、私がベルガ王国に向かいますので書状をしたためて頂けないでしょうか?
私が帝国からの迎えを任された事にしてその使者達の動きを見張りに行きます」
「……そうだな、下手に勘繰って動かずいるよりは相対して聞き出す方が良いか」
ヴィクトリアはそう言うと侍従に手振りで指示を出す、そして席を立って告げた。
「ベルク、すぐに出れる様に準備をしておけ。
他の者は引き続き調査と対処を、それと使者を迎える準備をせよ」
「「「御意」」」
その言葉と共に各々が行動を開始した……。