204:光と闇
(アリアside)
「放して!ベルクが!」
領域に向かおうとするのをルスクディーテに抑えられる、振りほどこうと思えば振りほどけるがルスクディーテの真剣な顔を見て振りほどく事は出来なかった。
「あの領域の中に入れば否応なしに命が奪われる、あの僅かな時間であれだけ疲弊したのだ。
…その状況でベルクを見つけ出し連れ出す事など不可能だ」
「でも、このままじゃベルクが!」
「無策で行くなと言っているのだ!ベルクが無駄死にを喜ぶ様な者ではないのは一番知っているだろう!?」
「…っ!」
ルスクディーテの喝に動きを止める、本当は今すぐにでも迎えに行きたいがベルクはそのせいで私達が死ぬのを許さないだろう。
そんな人だから私達が繋ぎ止めてなければいけないのに…。
小さくなっていく光の領域を見ながら方法がないかを考える、だけど焦燥が増すばかりで考えが上手く纏まらないでいると…。
光の領域から巨大な白い影が飛び出す、影は上昇すると真っ直ぐとこちらへ飛んできた。
間近まで迫ったそれは私達の前で降り立つ、巻き上がる風に顔を手で守りながらもそれを見上げた。
全身の輝く白亜の鱗、空を斬り裂く翼、強靭な四肢には鋭い爪、先端が槌矛の様な長大な尻尾…。
鋭い牙が並んだ顎と鋭い角を備えた頭には全てを見通すかの様な赤い眼があった。
「“生命の到達点”…」
あらゆる生物、あらゆる環境でその頂点に立つ者だと言われれば納得してしまう様な存在が目の前に立っていた。
ハイエンドは私達を見下ろすと手に抱えていたものを地面に降ろした。
「ベルク!」
降ろされたのは右手にカオスクルセイダーを握り締めたベルクだった、ハイエンドは動かないベルクを見下ろすと全身を輝かせる。
光の粒となったハイエンドはベルクの左手に集まっていく、輝きが収まって再び見てみるとベルクの左手には白亜の剣がしっかりと握られていた。
「「「…」」」
目の前で起きた事にその場の全員が唖然とする、だけどすぐに気を取り直してベルクに駆け寄って容態を確認した。
脈もあるし呼吸もしている、ただ左肩の斬られた傷からかなりの血が流れていた。
「セレナ!」
「すぐに治します!」
私と入れ替わる様にセレナがベルクの傷を癒す、顔色が少しだけ良くなったベルクにホッとしながらもルスクディーテに今さっき起きた事を聞いてみた。
「ルスクディーテ、今のって…」
「…ハイエンドがベルクを次の担い手に選んだ、としか言えぬ」
「そ、そんな事があるの!?レアドロップは一人ひとつしか持てないんじゃ!?」
「そうとも言えぬ、さっきのゼノスタンドの様に我等の意志が反発せん限りは複数のレアドロップを使うのは理論上可能だ…。
だが意志を統一出来ず力を制御出来なければ我等諸共に滅びるかも知れぬ自殺行為なのだ」
だが…とルスクディーテは言いながらベルクを見た。
「カオスクルセイダーは元々複数の意志で構成されておる…故に他の者とも意志の統一が可能、なのかも知れん…」
ルスクディーテも断言が出来ないらしく、珍しく困惑した顔で治療を受けるベルクを見ていた。
「…ひとまず帰りましょう、もう色々ありすぎて頭が回らないわ」
ベルクの治療を終えた私達はウォークリアへ戻る為に歩き出した…。