203:理解(ロウドside)
鎧が解除される、下を見れば俺の体を貫く刃がそこにあった。
あれほど高鳴っていた心臓が動きを止めていく、血と共に力が抜け落ちていく感覚に俺は死ぬのだという事実が否応なしに突きつけられた。
「見事…だ」
この状況になっても口から漏れ出たのは称賛だった、そして戦いが終わってしまったという事への寂寥が湧いてくる。
「…俺は、兄貴がいなければ独りだった」
俺を貫いた者…ベルクが呟く、普段なら聞きすらしないほどの小さな呟きが今は耳に入った。
「小さい時、一人になって苦しかった時に見つけたのがアンタの冒険譚だった」
剣を握る力が強くなっているのが刃を通して震えが伝わる。
「たった一人で、危険なダンジョンに向かって、強大な魔物と戦って、誰もが認める最強の冒険者になったアンタに…憧れた」
ベルクは俯かせていた顔を上げる、兜の眼からは透明な雫を流しながら続けた。
「俺が強くなれたのは…俺が冒険者の道を選べたのは…胸を張って生きれる様になれたのはアンタが最強でいてくれたからだ」
似たような言葉を何度も聞いてきた、その筈なのに煩わしさを感じない。
「ありがとう、最強でいてくれて…俺の進む道を示してくれて…戦ってくれて本当にありがとう」
(…ああ)
湧き上がる感情の正体にようやく気付く、それはついぞ理解する事が出来ないと思っていたものだった。
(託すとは…こういう事か、エルフォード)
自然と笑みが溢れる、あの男が最後に言っていた言葉が自然と脳裏に浮かんだ。
「良い戦いだった」
自らを貫く刃に触れながら口を動かす、血が伝うのも構わず言葉にした。
「楽しい勝負だった」
体が端から崩れていく、領域に蝕まれながらも目の前の先へ行く者へ残す言葉を紡いだ。
「貴様は貴様の道を行くが良い…ベルク」
体が崩壊していき意識も薄れていく、だが思い残す事はない。
結末などに興味はなかった、死ねばその時はその時だと思っていた。
だが…。
(この最期は…存外悪くはないんじゃないか?)
虚ろだった心が満たされながら俺は崩れていった…。
―――――
(ベルクside)
ロウドが光の粒となって消えていく、剣に掛かっていた重さが消えても呆然としていたが次の瞬間には膝をついていた。
「ぐ…う…っ」
力が入らずそのまま倒れる、イル・イーター…そしてロウドとの戦いで全力を使い果たした俺は立ち上がる力すら残っていなかった。
ガルマはロウドとの戦いで破壊されて暫くは召喚できない、そもそも鎧の維持をするのが精一杯で召喚する余力は残っていない。
(ここまで…か)
意識が途切れ途切れになる、だが頭の中を過るものが繋ぎ止める。
(アリア達が…待ってる)
這いながらも先へと進む、周囲が崩壊していく中でそれでも前へと進んでいく。
(生きて…帰るんだ)
崩れ去っていく領域の中で歯を食い縛りながらも動かない体を無理矢理動かしていくが、やがて指先の感覚すら失せていく。
意識を失う寸前に視界に何かが映った気がした…。