201:崩壊する領域
(終わったな…)
神殺しを解除して立ち上がる、魂を破壊した事で再び影となりフィフスとして暗躍する事は…イル・イーターが現れる事はもうない。
白い破滅がこの世界に姿を現す事はもうない…。
「…」
魂を破壊した時に見えたイル・イーターの始まり…それは些細な食卓の幸せから生まれた祈りだった。
それが長きに渡って争乱と欲望に触れ続けた結果、全てを喰らう魔神へと堕ちてしまった…。
思うところはあるが後悔はしていない、奴が人の弱さと醜さのせいで堕ちたのだとしてもこれまでの事が許される訳ではないのだから。
俺達に出来るのは、イル・イーターの様な存在が生まれない様に祈るくらいだろう。
「…っ!?」
周囲の空間が崩れていく、白い空間が音を立てて壊れると領域そのものが崩壊しかけていた。
いるだけで命を奪われていく領域の崩壊…下手すれば崩壊に巻き込まれてしまう可能性は十分にあった。
ガルマに乗って駆ける、見れば地面には亀裂が走っていき辺りから轟音や岩が隆起しては砕けていった。
ガルマは地割れを的確に避けて走る、隆起した岩を駆け上がって飛ぶ、崩壊していく白い領域の中を一筋の流星の如く駆け抜けていく。
「あそこだ」
遠目にだが領域の境目が見えてくる、これなら余裕を持って脱出できそうだ。
(流石に色々ありすぎたな…)
戻ってアリア達と合流したらまずは休もう、それからウォークリアに戻って事後処理が終えたら…アリア達を連れて母さんの墓参りに行こう。
その後の事はその時に考えるが、しばらくはゆっくりして過ごしたい。
そんな事を考えながら領域を駆け抜けていた…。
背筋に悪寒が走る、俺に向けて凄まじい勢いで何かが迫っている。
迫る気配の方を向きながら盾を展開する、視線の先には槍を手に白亜の鎧を纏った者がいた。
「ぐっ!?」
突き出された槍を盾で受けた衝撃でガルマの上からふき飛ばされる、地面を転がりながらも体勢を直して顔を上げると竜の頭に白亜の鎧を纏った馬に乗ったロウドがいた。
顔に皹の様なものが入ったロウドが兜を装着する、兜の赤い眼が輝き俺を捉えた。
「…生きていたのか」
「奴の中で抗っていた時にお前が奴を揺らがした、その時に力の一部を奪って脱け出しただけの事だ」
…イル・イーターが戦っていた時に突然苦しみ出したのはカオスクルセイダーによって揺るがされたからだと思っていた、だがそれだけじゃなく中でロウドが抗っていたからか。
知らず知らずの内に俺はロウドと共闘していたらしい…。
「この領域はもうじき崩壊する、このままだとアンタも崩壊に巻き込まれるかも知れないんだぞ」
「…俺と奴を繋いでいたものは消えた、奪い取った力とこの体もどこまで保つかは分からん…ならば!」
ロウドは俺に穂先を向ける、兜越しにこちらを見る眼には己の死期を悟ってなお揺らぐ事のない意志が宿っていた。
「最期の一分一秒!俺の命の最後の一欠片まで遺す事なく俺の理想の為に燃やし尽くす!
決着を着けるぞ!ベルク!」
「…アンタは本当に、最期の最後まで」
立ち上がると傍に立つガルマの背に乗る、手綱を握って斧槍を手にした。
「良いぜ、相手になってやる」
穂先を向けて宣言する、気がつけば顔は笑っていた。
「アンタの伝説は…此処で幕引きだ!」
崩壊する領域で同時に駆け出した…。