200:神殺し
巨大剣の刃が地面に突き刺さる、俺の周囲に闇が水溜まりの様に広がった。
動きを止めた俺に白い軍勢が襲い掛かる、空からも襲い掛かってきて押し潰そうとしてきたが…。
闇から飛び出る様に振るわれた大鎌が群がってきた軍勢を斬り裂く、死神の如き姿の処刑人は大鎌を手に次の獲物に振るった。
斧槍を手にした戦士が変幻自在の槍捌きで魔物達を駆逐していく、振るわれる穂先は魔物達を引っ掛けて止め、斬り裂き、貫いていく。
弓矢を構えた狩人が矢を放つ、凄まじい早さで連射される矢は空から迫る使徒達を狂いなく射抜いていった。
法衣を纏った聖者が巨大剣を術で浮かして操る、迫り来る魔物達は唸りを上げて振るわれる刃に断たれた。
女傑が放った鎖が自身の数倍もの体躯を持つ魔物達を縛り上げる、戦斧を手にした巨漢が縛られた魔物を叩き割った。
塔型大盾を構えた重装歩兵達が押し寄せる軍勢を塞き止め押し返す、勢いを無くした軍勢に騎兵槍を構えた騎馬隊が突撃した。
巨人の魔物を槍を持った騎士が動きを止め剣を持った騎士が倒す、二人の騎士は息の合った連携で戦場を駆けた。
鋭い爪を振るう光の竜を斬馬刀を持った戦士が両断する、その背を守る様に同じ斬馬刀を持つ戦士が構えた。
装備も、時代も、戦い方もまるで違う…されど一騎当千の兵達が一丸となったカオスクルセイダーがイル・イーターが生み出した魂無き軍勢を蹴散らしていく。
白しか存在を許されていなかった領域で黒が波紋の様に広がっていく、イル・イーターが各部の口から光線を放つが漆黒の混成軍の勢いが止まる事はない。
「何故だ、何が起きてる!?」
イル・イーターが目の前の光景に疑問の声を上げる、光線が雨の様に放たれるが黒い軍勢は鬨の声を上げながら進軍を続けた。
「我は取り戻したのだ!不確かな影ではない絶対的なる光へと還ったのだ!
絶対なる我の領域を脆弱な魂の寄せ集めが何故…っ!?」
イル・イーターの頭に亀裂が入る、苦悶の声を上げながら頭を押さえて苦しみながら叫びだした。
「馬鹿な!?我は神だぞ!?何故絶対なる我が、我が領域が揺らぐのだ!?」
「…」
イル・イーターに向けて駆ける、巨大剣を掲げて闇を纏わせていく。
(それだけでは…足りない)
奴を滅ぼすにはこの刃だけでは足りない、奴の魂を斬り裂けるだけの強大な刃が必要だ。
だから掛け合わせる、戦士達の魂を、カオスクルセイダーが持つ全ての闇をひとつにして神を殺す新たな刃を生み出す。
巨大剣が纏った闇と共に形を変えていく、そして巨大剣を軸にあらゆる刃を繋げ組み合わせかの様な一見すると黒い大樹を思わせる巨大な刃を手に取る。
“神殺し”、戦士達の魂をひとつにした唯一無二の刃を手にイル・イーターに迫った。
神殺しに闇を纏わせて“黒刃嵐舞”を放つ、渦を巻く闇の嵐はイル・イーターの巨体を拘束して斬り刻む。
「ガルマ!奴の魂の前まで駆けろ!」
ガルマと共に闇の渦へと飛び込む、神殺しを振るって胸部を斬り裂くと溢れる光の中へと飛び込んだ。
全てが白く染まった光の中を駆ける、この先にあるものを捉え鞍の上に立つ。
光を抜けた先にある空間にぽつりと佇む者がいる、口だけがある人型の光…イル・イーターの魂がこちらを見上げる様に存在していた。
「お前が喰らえるのは刃だけだ!」
ガルマから跳び降りながら神殺しを振りかぶる、そして全力でイル・イーターの魂へと振り下ろした。
剣風が吹き荒れて少しの間だけ静寂が空間を支配する、振り下ろした体勢の俺を見下ろしながらイル・イーターが口を開いた。
「神たる我を殺すとは…この、化物め…」
心の底から恐れる様な、理解できないものを前にしたかの様な言葉を吐くとイル・イーターの中央に線が入り真っ二つとなる。
イル・イーターはガラスが割れる様な音を立てて砕け霧散していく、それが世界を喰らおうとした魔神の最期だった…。