20:求めた理由
「手に入れられた様だな」
長剣を手にしたアリアに声を掛けるとハッとした顔をして目元を拭うとこちらへ向き直った。
「うん、後は使いこなせる様にならなきゃ…だね」
「ああ、だがひとまずは戻ろうと言いたいが…」
天井の火口を見上げる、今の魔力量で昇るのは厳しいかと考えていると…。
『安心するが良い、我が送ってやるわ』
その言葉と同時に俺達の足下が光輝く、気付くと景色が変わっており見渡すとダンジョンの入口付近だった。
「転移…か?」
『うむ、このダンジョンの中ならば我もある程度の融通が効くのでな。
そら、土産代わりにこれらも持って行くぞ』
見れば足下にはあの部屋にあったであろう大量の宝石や鉱石があった、どれも良質なものだというのは一目で分かった。
『その類のものに人間は価値を見出だすのであろう?送るついでに持ってきてやったわ』
「…今更だけど凄いのと契約交わしたのね私」
「まあ、ひとまずは街に戻るか」
宝石と鉱石を回収してダンジョンを後にする、とりあえずはアリアの依頼を達成する事が出来たと考えて良さそうだった。
―――――
一日掛けて街に戻り、宿に戻ってギルドへの報告書を書いているとドアが開けられる、振り返ると湯浴みを終えたアリアが入ってきた。
「お疲れ様、少し話さない?」
「構わないが」
ペンを置いて向き直るとベッドの座ったアリアが横をポンポンと叩いている、促されるまま横に座ると上気した肌等に意識がいきそうになるのを堪える。
「それで、どうした?」
「…力を貸してくれた貴方には話しておこうって思ったの、私がレアドロップを手に入れたかった訳を」
アリアはそう言うとポツポツと語り出した。
「私にはセレナっていう5歳の時からずっと一緒にいた子がいたの、でも10歳の洗礼の日に別れる事になった」
「洗礼の日…ラウナス正教か」
ラウナス正教はベルガ王国やミルドレア帝国があるヒューム大陸で信仰されている宗教だ、総本山であるラウナス教国は内陸にある小規模な国だが信者はそれこそ大陸中にいるので大国に並ぶ力があると言える。
「だが洗礼はあくまで祝福された水を被るくらいのものだろう、何があった?」
「洗礼を受けたセレナの前に杖が顕れたの、ラウナス正教で厳重に保管されていた筈の聖杖が」
「…まさか」
「セレナは選ばれたの、途絶えたはずの聖女に…」
―――――
ラウナス正教には聖具と呼ばれるものがある。
ひとつは正教騎士団の団長に継承される聖剣と盾、もうひとつはかつて大いなる闇を祓い人々を救ったという聖女が手にしていた聖杖だ。
だが聖杖は数百年前に持ち主が亡くなって以来、誰にも使えないままとなっていた。
数百年ぶりに聖女が顕れたというのは当時かなり騒がれていた、俺はそこまで興味を抱かなかったがそれがアリアの友達だったとは…。
「それで、どうなった?」
「当然騒ぎになったけど問題はその後、ラウナス教国はミルドレア帝国に対してセレナの身柄を渡す様に言ってきたわ、渡さなければ強行手段に出るっていうのをほのめかしてきたから帝国と一触即発になりかけたらしいの」
「そんな事が…」
「私はセレナと別れたくなかった、なによりラウナス正教の上層部は一部を除いて腐敗してるのは当時の私でも知ってたからそんな場所にセレナを行かせたくなかった」
アリアは顔を俯かせる、聖女が今ラウナス正教の象徴となっている現況を鑑みればそれが叶わなかったというのは明らかだ。
「セレナは頭が良かったから行かなければ争いが起こるって分かったんでしょうね、私は行くのを止めようとして喧嘩になっちゃった時に言われたの。
『何も出来ない癖に勝手な事言わないで』って」
アリアの眼から涙が溢れる、ぽたぽたと落ちる雫は彼女の服に染みとなっていった。
「許せなかった、セレナにそんな事を言わせた弱い私が…守れる力がなかった事が悔しかった」
掛ける言葉が見つからない、当時10歳のアリアにそれだけの力を求めるのは酷だろう。
「だから別れ際に約束したの、必ず強くなって迎えに行くって…拐ってでも助けに行くから待っててって…」
「…それがレアドロップを求めた理由か」
「うん、だからお礼を言いたかった…本当にありがとう、ベルクがいなかったら私はこうして生きてなかったしルスクディーテの力も借りれないままだっただろうから」
「…これからどうするんだ?」
「まずはミルドレアに帰って、その後はラウナス教国に向かうつもり、どうするかは向かいながら考えるわ」
そう言うとアリアは俺に寄り掛かる、そして手を掴んで自身の胸元へと押し当てた。
「でもここから先に貴方は巻き込めないから」
どこか寂しさを感じさせる眼で見つめながらアリアはすがりつく様に抱きついてきた。
「だから…これはお礼、今の私には体しかないから…」
俺はアリアの唇を塞いで、その先を言わせなかった…。