198:火を灯された者達(複数視点)
(ベルガ王国)
地上から土煙を上げながら王都に向かう白い軍勢の真っ只中に飛び込む者がいた。
「…“土剛壁”」
岩の鎧を纏った戦士…ラクルが斬馬刀を振り下ろすと地面が砕け地割れが起きる、そして背後に岩の壁が現れて行く手を阻んだ。
「ここから先は通さない」
ラクルは斬馬刀を構えながら言い放つ、迫る魔物達を一閃するが後続の魔物達が牙を剥こうとして…。
重厚な剣戟と紅い剣閃が走る、牙を剥こうとした魔物は頭蓋を割られて消え去った。
「まさか生きてる内にこれ程の大きな戦をするとは思っていませんでしたな…行け!」
「世界を救う戦い、荷が重いですが息子達にだけ背負わせる訳にも行かん…総員掛かれ!」
灼刃騎士ボルガと騎士団長ブラムスの号令で控えていた騎士達が突撃する、ラクルが生み出した岩の壁と騎士団に挟み撃ちになった魔物達は瞬く間に掃討された。
「まだ来るみたいだな、行けるかラクル?」
「ああ、セルクが戦ってるんだ…俺だって負けてられない!」
ラクルはそう言ってブラムスと共に新たに姿を現した魔物達に向かっていく、親子の後ろ姿を見ながらボルガは呟いた。
「王国にはバドル殿以外にも気骨ある者がいるではありませぬか…この老骨の血も滾ってくるというもの」
ボルガは剣に灼熱を宿して戦場を駆けた。
―――――
(ラウナス教国)
修繕された防壁を囲う様に使徒達が攻撃を仕掛けようとしていた。
使徒達の攻撃が教国に降り注ぐ、すると防壁から結界が貼られた。
「アンタ達、気合い入れて祈りな!」
メルティナが祈りながらも活を入れる、聖職者達が全員で構築した結界によって攻撃は防がれる。
「今です!」
防壁の術式を元に構築した結界によって攻撃を防いだ直後にルミナスの指揮によって使徒達に攻撃が行われた。
魔術と矢が使徒と魔物達に襲い掛かる、魔物達はそれでも防壁に迫るが防壁の上に待機していた住民達が瓦礫を落として対抗した。
「これなら防衛に問題はありませんね」
「そうさね」
ルミナスとメルティナが並びながら魔物達を見据える、メルティナがルミナスの剣に祝福を与えるとルミナスは剣を魔物達に振り下ろした。
祝福によって強化された斬撃が魔物達を斬り裂く、その姿に教国の騎士と民達は奮い立った。
「重大な役目を任せてしまうのは心苦しいですが…“清廉騎士”の称号を与えられた者として私は私に与えられた責務をこなしましょう」
ルミナスはそう言って剣を構える、メルティナは杖を手にして構えた。
「やれやれ、まあ私も偽物の神なんぞに祈る気はないからね」
そう言って術を展開した。
―――――
(ウォークリア)
「やれ!」
「「「おぉぉぉっ!」」」
迫る魔物達に向けて冒険者達が立ち向かう、それぞれのパーティが魔物達を分断して各個撃破していきながら抵抗していた。
「むん!」
巨人の魔物が振り下ろした棍棒をガランが大盾で受け止める、弾いてバランスを崩させると仲間達が魔物にトドメを刺した。
「どらあっ!」
ホルアスの大剣が大気ごと魔物を斬り裂く、エネアとマルセラも空から迫る使徒達を魔術で迎撃していた。
「俺達だって戦うぞベルク…むっ!」
攻撃を潜り抜けた使徒達が空から攻撃しようとして…。
使徒達が一太刀で斬り裂かれていった。
「やれやれ、この様な事態は想定していなかったよ」
かつての戦装束に身を包んだギルドマスターが刀を手に身軽に着地した。
「ギルドマスター!?大丈夫なんですか!?」
「鍛練は続けていたからね、それでも昔の…ましてやベルク君の疾さには及ばないがね」
刀を鞘に収めながら“風跳”を発動して跳躍する、大気を唸らせながら使徒達を瞬く間に斬り裂いた。
「“鳳人”ゼンジ、参るとしよう」
皴が刻まれた顔に好戦的な笑みを浮かべながらギルドマスターは再び刀を鞘に収めた。
―――――
(ベルクside)
「確かに人には自分の為に誰かを傷つける弱いところや醜悪なところがある」
イル・イーターを見据えながら語る、俺が見つけた答えを。
「だけどな、人にはどんな大きな絶望を前にしても立ち上がる強いところがある、誰かの為に自分を犠牲にする美しいところがある。
それが人だ、どれだけ絶望に晒されて折れそうになろうと立ち上がって前に進み!誰かの為に戦えるのが…お前が見てこなかった人が持つ強さだ!」
剣を掲げる、焔の様に揺らめく闇を纏いマントがはためいた。
「そして俺は、そんな人々を守るカオスクルセイダーの担い手…黒嵐騎士ベルクだ!」
ガルマが俺に応える様に嘶きと共に大地を蹴って走った。