197:抗う世界(複数視点)
「何故だ?」
イル・イーターが天を見上げながら疑問の声を上げる、心の底から理解できないとでも言う様に。
「命が思う様に集まらぬ、使徒達は何をしているのだ?」
「…分からないのか?」
ガルマを召喚しながら光線の雨を吹き飛ばす、闇を纏いながらイル・イーターを見上げた。
「神の癖にそんな事も分からないんだな」
「…なんだと?」
「お前が考えてるほど人は、世界は弱くないんだよ」
―――――
(ミルドレア帝国)
突如として現れた白い魔物の軍勢に民は混乱しており兵士達も未曾有の事態に上手く動けなかった…だが。
紅い斬撃が扇状に拡がって白い軍勢の先鋒を蹴散らす、勢いが止まった軍勢の前に真紅の戦装束を身に纏い大剣を手にしたヴィクトリアが立ちはだかった。
「狼狽えるな」
凛とした声がその場に響き渡る、ヴィクトリアの全身を包む皇気が拡散して後ろに駆けつけた騎士達に、兵士達を包んでいく。
巨大な紅い獅子と見紛う軍勢と化した帝国軍は白い軍勢と真っ向から対峙した。
「今こそお前達の力を示す時だ、お前達の鍛え上げてきた強さを、お前達が手にしてきた力を使う時だ!」
ヴィクトリアの鼓舞が戦場に響く、その鼓舞は獅子の国の戦士達を奮い立たせた。
「我が最強の騎士が世界を救う為に戦っている!我が黒嵐の騎士ならば魔神であろうと必ずや打ち破ってみせるであろう!
ならば我等もまた勝利しなければならん!」
ヴィクトリアが大剣を掲げる、そして白い軍勢を示した。
「獅子達よ!今こそ己が守るべきものの為に戦え!」
鬨の声と地響きを轟かせながら帝国軍が突撃する、一番槍となった雷穿騎士の部隊が切り開いた隙から紅き軍勢が白い軍勢に喰らいついていった。
「必ず勝つのだぞ、ベルク」
そう呟いてヴィクトリアも前線へと躍り出た。
―――――
(ベルガ王国)
「魔砲準備!」
バドルの号令が響くと同時に城壁に備えられた砲台が空から迫る使徒達に向けられる、魔砲には魔力の輝きが灯っていた。
「撃てぇ!」
幾つもの魔砲が火を吹き砲弾が空高く撃ち出される、砲弾は空中で幾つもの火の玉に分かれて使徒達を撃ち落とした。
「次弾装填!魔術部隊は牽制を!」
バドルの指示に兵士達は動き回る、バドルも魔術で使徒達を牽制しながら戦況を見ていた。
「バドル様!地上の魔物達が更に増加して向かっています!こちらから支援を…」
「大丈夫だ、騎士団長達にこう伝えて来てほしい」
「え?」
伝令に来た兵士に穏やかな笑みを浮かべながらバドルは答えた。
「地上の魔物達は貴方達に任せる、と…」
再び魔砲の準備を指示しながらバドルは魔術ですり抜けてきた使徒を撃ち落とす。
「私達がやるべきはセルクが勝つまで空から来る魔物を一匹たりとも通さない事だ」
バドルの言葉に兵士はすぐに走り出す、城壁の下ではフィリアが通信水晶を使いながら魔砲の弾の製作を指示していた。
「アリアちゃん達も頑張ってるからねー、私達も頑張らなきゃー」
そう言いながらも手元の作業を止める事なく続けていく、傍ではテレジアが難易度の高い魔術を込める作業を行っていた。
「私も、私に出来る事を…」
額に汗を浮かべながらもテレジアは魔術を込めていった…。