194:対峙
「待ってベルク」
飛び立とうとするとアリアに声を掛けられる、振り向くとアリアは仕草で兜を解除する様に促してきた。
兜を解除するとアリアは手にした瓶の中身を口に含む、そして俺の頬を掴んで口づけをしてきた。
重なったアリアの口からエリクサーが流し込まれる、消耗していた体力や疲労がなくなり活力が戻ってくる。
「おまじない、必ず戻って来れる様にね」
そう言ってアリアは下がると入れ替わる様にセレナとシュリンも唇を重ねてくる、離れると真っ直ぐな眼で俺を見た。
「出遅れてしまいましたが、御武運を」
「ベルクなら大丈夫」
「…ああ」
兜を着け直す、自然と上がった口角を見られない様にしながら翼を広げる。
「行ってくる」
そう言い残して光の領域に向けて飛翔した。
―――――
領域の中はやはり白く染まった世界となっている、その中央に存在するイル・イーターに向けて飛びながら槍に闇を纏わせた。
螺旋を描く闇を纏った槍を投擲する、それに気付いたイル・イーターの腕に槍は刺さった。
槍は半ばまで刺さって止まる、小さく見積もっても30m近くはあるであろう巨体は少なくともダンジョンの壁よりは頑強な体をしているらしい。
イル・イーターの腕の口が開いて光線が放たれる、空中で回転しながら避けるが光線は曲線を描いて迫ってきた。
「くっ!?」
光線に追われながらも地面に急降下する、地面スレスレで急カーブすると光線は地面抉って消えた。
“羽虫が一匹、入り込んだか”
イル・イーターの身体中の口が開いて大小様々な光線が放たれる、全ての光線が俺に向けて迫った。
迫る光線を掻い潜りながら飛翔する、大きな光線は避けて小さな光線は闇を纏った剣や盾で捌く。
光線の雨を潜り抜けながら巨大剣を手にしてイル・イーターの頭に斬り掛かる、だがその周囲から現れた光に遮られた。
「これはっ!?」
光の正体は人だ、様々な容姿をした幾つもの人型の光が肉壁となって俺とイル・イーターの間に割って入っていた。
光は何十もの腕に変わると俺を突き飛ばす、空中で体勢を直すが腕は視界一杯に広がる様に迫ってきた。
両手に弩を持ちながら翼から矢を放つ、迫ってきた手は全て射ち落とせたが背後から迫っていた光線をまともに受けてしまった。
衝撃に堪えながら着地する、顔を上げると再び光線の雨が降り注いできた。
塔型大盾を展開しながら翼で全身を覆う、直後に凄まじい衝撃が盾を通して伝わり周囲に爆風が吹き荒れた。
“貴方に構っている暇はないのだよ、これから世界を喰らう為の下拵えを始めるのだからな”
そう言い放ったイル・イーターの全身が更に光輝く、光は収縮する様に弱まったかと思った直後に爆発したかの様に更に強く輝いた。
光は巨大な柱となって天へと昇る、その光景は世界の終わりを暗示してるかの様だった。
“さあ我が使徒共よ、世界の命を刈り取ってくるのだ!”