193:世界を喰らう光
それは最初は小さな食卓を照らす光だった。
小さな村で日々の糧を得られた事を実感する事が出来る光への感謝が祈りとなってそれは生まれた。
やがて村が滅びてもそれは世界を漂い続けた、食卓に光が灯れば存在を保つ為の祈り…想念を得られるからだ。
そして幾千もの年月の中で自らも食らう様になったそれは自我と共に飢えが生まれた、得てきた想念は食卓の上で収まる事は失くなっていき飢えだけが増していく中でそれは気付いた。
照らすものがより広がればより多くのものを食える。
そして小さな食卓だけでなくあらゆる者の食卓を照らしていった、だが飢えは満たされる事はない。
次第に自身と人が食うだけで得られる想念では満たされなくなっていく、だから照らすものを増やしていく。
増やして、照らして、増やして、照らして…照らして照らして照らして照らして照らして照らして照らして照らして照らして照らして照らして。
顕現する程までに肥大化したそれがその結論に辿り着くのは必然だったのかも知れない。
世界を照らせば全てを喰えると…。
―――――
イル・イーターから光が放たれる、それは空間を白く染め上げていき俺以外の全てが白くなった。
「何、これ…」
アリア達も例外なく白くなっている、だがその体から…いや、白く染まった全てから砂の様な小さな光が浮かんできた。
「これは…マズい!」
エイルシードの声が響く、続け様にルスクディーテが声を荒げて告げた。
「アリア、この光は命だ!早くこの領域から出なければアレに全て喰らい尽くされるぞ!」
「っ!急げ!」
イル・イーターから全速力で離れる、幸い光の領域はそこまで広がってない様で領域を出た後も飛び続けて光の領域から距離を取る。
離れた位置に着地した瞬間アリア達は展開を解除して膝をつく、すぐ側に魔物の姿になったルスクディーテ達も現れた。
「…そういう事なのですね」
肩で息をしながらセレナが呟く、そして徐々に広がりつつある領域を見ながら話した。
「あの領域はあらゆるものの命を問答無用で奪う、奪った命はイル・イーターの力となって更に領域を拡大していく…やがて世界を覆い尽くす」
「あの領域の中では我等も命を奪われます、先程の状況から考えて…我等がイル・イーターを倒す前に命を奪い尽くされるでしょう」
「…なるほどな」
セレナの未来視の通りだ、上位の存在であるルスクディーテ達ですら問答無用で命を奪う力…ヴィクトリアや世界中が束になっても勝てないというのも理解できる。
…だが。
「俺はなんともないんだが」
あの光の領域の中で俺だけは命を奪われなかった、ロウドと戦った消耗はあるがアリア達の様に命を奪われて消耗はしていない。
「それはカオスクルセイダーの力です、あの領域の中ではイル・イーターに連なる者か…対抗手段として世界に生み出されたカオスクルセイダーしかあの領域の中には存在できないのでしょう」
「…奴を倒せるのは俺とカオスクルセイダーだけ、という訳か」
領域を見ながら呟く、身体の具合を確認しながらエイルシード達に聞いてみる。
「取り込まれたロウドはどうなっている?」
「…かの者は確かに強いですが人間である事に変わりありません、神に等しき存在に取り込まれた以上…」
「助からんじゃろうな、精神もとうに砕けている頃であろう」
「そうか…」
複雑な思いが胸中を巡る、だがその全ては目の前の事を片付けてから考える事だ。
「アリア、セレナ、シュリン、いってくる」
翼を展開しながら俺はそう告げた。