192:僅かな隙
「召喚魔術が起動したか…」
互いに息を乱しながら成り行きを見ていたところでロウドが塔を見上げながら呟く、アリア達の安否や様々な事が頭を過るがロウドを前に下手な動きをする訳にはいかず身構えていると…。
ロウドを背後から影を纏ったフィフスが襲い掛かる、ロウドは振り返る事なく逆手に持った剣でフィフスを貫いた。
「邪魔をするつもりか、フィフス」
「いえ…頃合いというだけでございます」
「そうか、死ね」
フィフスを吊り上げる様な形で刺さっていた剣が輝いて光線を放つ、胸に大穴が空いたフィフスの体が宙を舞った。
そして爆発したかの如く体から影が噴き出してロウドへ向かっていった。
「むっ!?」
影は鎧の隙間からロウドへと侵入していく、影がロウドへと侵入していきながらフィフスの声が響いてきた。
“本来であれば私の力を以てしても貴方の体を奪う事は叶わないでしょう、ですがこれまで私を阻んできた…貴方に匹敵する彼と戦い消耗した今ならば…。
数分だけならば貴方の体を奪う事は可能です”
言い終えるや否や左手から放った光線が円環を破壊する、土煙が上がって宙へと放り出されるが翼を展開して体勢を直すとロウドに取り憑いたフィフスは塔へと飛翔していた。
「クソ!?」
急いで後を追うも玉座に座ったフィフスが黒杖で床を突く、すると塔全体を光が包み込んだ。
「くっ…」
光は結界となって俺を弾く、感触からしてかなりの強度で壊すには時間が掛かるだろう。
「ベルク!」
「アリア、無事だったか!」
「ええ、それよりも…」
飛んできたアリア達と合流したのも束の間、光が輝きを増していく。
塔の真上に複雑な模様で門を象った魔方陣が顕れる、直視する事が出来なくなるくらい強い光が周囲を照らす中でフィフスの声が響いてきた。
“全ては揃った、今こそ我は不確かな影から絶対なる光へと還る!そして今度こそ世界を喰らい尽くそう!”
塔が崩れて竜巻の様に巻き上がる、塔の中にいた魔物達が落ちていく中で塔だったものは別のものへと変容していく。
一見すればそれは巨大な天使の像に見えた、だが翼に見えたのは一対の鰐の様な顎で白い甲冑の如き身体は腕や脚、腹や胸など至るところに様々な生物の口や顎がついていた。
牙が並んだ頭部の上に天使の輪の如く光が現れる、その異形と放たれる力は体感した事がない程の圧にそれがどんな存在なのかを理解した。
“今こそ名乗ろう!全ての命ある者達を照らし喰らい尽くす者!即ちイル・イーターこそ我が真なる名である!”
白い破滅…目の前にいるこれこそがそうなのだと…。