189:対極の翼
互いの剣を打ち合う音が鳴り響く、幾度も剣が交差する様にぶつかり合って火花を散らす。
「ははっ!」
「はあっ!」
一際甲高い音が響いて互いの剣が宙を舞う、直後に互いの拳が交差して兜越しに殴り合った。
踏み込んで脇腹に拳を打ち込むとすぐに鳩尾を殴り返される、拳を打ち込まれた状態で肩を掴まれ持ち上げられ壁へと叩きつけられる。
「ぐっ…」
「ぬおあああああっ!」
壁に叩きつけられた状態でロウドは走る、叩きつけられた俺を使って壁を削る様に走ると再び俺を持ち上げて床に叩きつけられた。
「かは…っ」
床に倒れた俺にロウドは片足を上げる、転がって避けると俺がいた場所が踏み砕かれた。
光線を放とうとしていた腕を這う体勢から蹴り上げて逸らす、その場で独楽の様に回ってロウドの腹を殴る。
「オラァッ!」
頭が下がったロウドの角を掴んで顔面を殴り上げる、角と腕を掴んで投げ飛ばす。
たたらを踏んで下がるロウドに向けて拳を握りしめながら走る、するとロウドの両手首の上から刃が出てきた。
振るわれる刃を交差させた腕で受ける、火花を散らしながら再び振るわれる刃を避けるが左右から迫る刃を腕で受けると凄まじい力で押し込まれて膝をつく。
刃が鎧に凄まじい力で押し込まれる、歯を食い縛って押し返そうとするが刃は徐々に迫ってくる。
「…おおおおおおっ!」
腕に闇を纏って衝撃波と同時に振り払う、立ち上がりながらロウドを前蹴りでふき飛ばす。
剣を手にして構える、ロウドも刃を剣にすると俺に向けて構えた。
同時に走り出して剣を振るうと鍔迫り合いとなる、刃が擦れ火花を散らしながら拮抗していたがロウドの背から翼が広がると羽ばたきと共に押し込まれて壁へとぶつかる。
ぶつかる威力に耐えられなかった壁を突き破って外に放り出される、“蝕”を発動して翼を展開するとロウドが上空から剣を振り下ろしてきた。
剣で受け流しながら俺も翼を広げて飛翔する、互いの位置を入れ換える様に空中で打ち合いながら視線を交差させる。
ロウドの翼が輝いて幾つもの光線が俺に向けて迫る、真下へと急降下しながら追ってくる光線を避け、剣で弾きながら迫るロウドに翼から数百の矢を撃ち出す。
塔の外壁を駆け上がる様にして登りながら弩を撃つがロウドは翼を自在に操って矢を掻い潜りながら迫る、振るわれる剣を避けて塔の周辺を旋回する様に飛ぶとロウドが並ぶ様に迫る。
飛びながら幾度も剣を交差させて取っ組み合いながら互いの体を塔へとぶつけ合う、外壁に掴まって漆黒の矢と白い光線を行き交わせながら再び羽ばたいて空を舞う。
空中で鍔迫り合い、互いに弾かれる様に離れると塔の周囲に浮かんでいる円環の上へと降りる。
「お前も翼を得ていたか、つくづく俺の予想を超えてくるものだ…」
ロウドが兜越しの眼で俺を見る、そこには見るだけで焼け焦がすかのような輝きが宿っていた。
「お前を殺すのが惜しい…この戦いが、全てをぶつけれる相手が、俺が培ってきた力で倒せぬ苛立ちすら愛おしい!歓喜に血が滾り魂が武者震いを起こす!」
ロウドは天を仰ぐ、放たれる言葉は思わず聞き入ってしまうほど強い熱が込められていた。
「そうだ!この戦いは実に楽しい!だが同時に腹立たしさもある!俺が手にしてきた力を余す事なくぶつけられる歓喜と未だ倒れぬ事への憤りがな!」
ロウドの言葉に思わず歯を食い縛る、それは俺が感じていた事でもあったからだ。
自分が培ってきたもの、手にしてきた全てをぶつけられる相手と戦える喜び…それと同時に自分の全力を以てして倒せない相手への苛立ちが俺の中にある。
だが…。
(俺はもう、それだけじゃない)
立ち上がって闇を纏い剣を構える、ロウドも再び光を放ちながら剣を向けてきた。
「ロウド、俺はアンタを…」
「ベルク、殺すのが惜しい程に…」
「「殺したい」」
互いの殺意を込めた刃が再びぶつかる…。