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19:与する事は出来ぬ


爪を斬り落とした瞬間、剣と身体に展開した魔術が解除される。


文字通り全身全霊を込めて放った一撃の反動は容赦なく身体を責め立て、意識を飛ばしそうになってしまう。


(ダメ…ま、だ…)


痛みで意識を手放さないで済んだが身体は動かない、このまま地面に倒れると思ったが柔らかいものに抱きしめられ心地好い暖かさに身を包まれた。


「全く、女子(おなご)ならば自ら肌を傷つけるものではなかろう」


ルスクディーテの胸の中に抱き抱えられていると気付いて抜け出そうとするが身体に力が入らない、すると全身を暖かい光が覆って少しずつ傷が治っていった。


「よもや我が爪を断つとはのう、そこらの人間が持つ剣よりははるかに強靭かつ鋭利なものだと自負していたが…」


「…でも、届かなかったわ」


抱擁を解かれて下がる、体の傷は治っても使った体力や魔力が戻った訳ではないので今にも倒れてしまいそうだった。


「うむ、結論から言えば貴様に与する事は出来ぬ」


「…っ!」


「だが昂ったのも事実じゃ」


その言葉に顔を上げる、ルスクディーテは妖艶な笑みを浮かべながら私を見つめていた。


「貴様の自らを焼き尽くしてでも成し遂げんとするその執念、その眼に宿った意志の輝き、思わず濡れてしまう程に昂ったわ」


「濡れ…」


「故にまだ与するとはいかぬが契約をしようではないか」


「…契約?」


「そうじゃ、貴様が我の望みを叶える代わりに我は貴様の武器となってやろう、上下の関係ではなく互いを利用する対等な関係…悪い話ではなかろう?」


ルスクディーテの持ち掛けた話を慎重に考える、少しして判断材料が足りないと思い至って問いかけた。


「…条件はなに?」


「うむ、条件はみっつ…ひとつは貴様自身が強くなる事、今は契約でもいずれ与するに値すると認められるくらい強くなれ」


ルスクディーテが立てた三本の指の一本目を折る。


「ふたつ、貴様の心が折れる…我を昂らせたものが潰えたと判断したら契約は終いとする、故に折れてくれるなよ」


そう言って二本目の指を折る、そして心の底から楽しそうな笑みを浮かべて最後の条件を口にした。


「最後は――――――。」







―――――


「…分かったわ、貴方と契約する」


「良い返事だ、ではそろそろあちらを呼び戻すとするかの」


「…そうだ!ベルクが!?」


ルスクディーテの言葉でベルクがバルログと戦ってるのを思い出した瞬間…。


天井の穴から巨大なものが落ちてくる、それは地面に落ちると凄まじい音を立てて空間を震わした。


落ちてきたもの…バルログには3m近くはあろうかという漆黒の巨大剣(グレートソード)が脳天に深々と突き刺さっており、それがこの悪鬼の命を断ち切ったと分かる。


バルログの屍の上に青年が降り立つ、青年が柄を握ると巨大剣は瞬く間に普通のサイズの剣へと姿を変えて手に収まった。


「すまん、少し手こずった」


崩れていくバルログの屍から降りたベルクに呆気に取られているとルスクディーテは突然笑い出した。


「くはははははは!よもやバルログと戦って生き延びるどころか倒すとはな!これほど心が躍ったのはいつぶりであろうか!?」


ルスクディーテはひとしきり笑うと再びこちらへ向き直る、そしてこれまでとは違った快活な表情を浮かべる。


「そういえば我が契約者だというのにまだ貴様の名を聞いてなかったな、なんという?」


「…アルセリア、今はただのアリアよ」


「そうか…では改めてアリア、我はこれより契約に従い貴様の刃となろう」


ルスクディーテがそう言うとその姿が再び炎となって燃え上がる、炎は集束していき一振りの長剣へと姿を変えた。


それは見る者を魅了する美しい剣だった、紅玉(ルビー)から削り出し磨き上げたかの様な剣身を黄金の刃が縁取っており、翼を模した鍔は煌びやかという言葉でしか表せないだろう。


導かれる様にその長剣の柄へと手を伸ばす、掴んで掲げると刃は紅く煌めいた。


「我は情欲の焔より生まれしものルスクディーテ、これからも我をとくと昂らせ、楽しませよ」


「…ええ、これからよろしくね」


ようやく手にした力に自然と涙が零れた…。

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