184:天秤を壊す者
「はあっ!」
最後の一体の天使を斬り裂くと魔石に変わる、階が上がる度に天使達の数は増えていくので面倒さが増えていったがそれでも九階まで上がってきた。
魔石を拾って一息つく、アリア達も傍まで来ると流石に疲れが見えてきたので少しだけ休息を取る事にした。
「ようやくね…」
「ああ…」
奥へ進む階段を見ながら答える、あれから観察と推測をしながら扉のヒントを元に進んだ。
それでも中には引っ掛けの様なものが幾つかあった、特定の魔術を禁止する様なものからいきなり魔術を使わないとならない法に変わったりして二回ほど破ってしまった。
強化された魔物には答え合わせの様に正しい文が彫られているのでダメ出しを受けている様で自分の未熟さを突かれている気分になった。
「だが、これで後は中ボスだ」
全員の息が整ったところで階段を上がっていく、しばらくして一際大きな扉が見えてきて近くまで行くと下とは違い文章になった古代文字と剣と天秤に十の翼を持つ天使の像が彫られていた。
「“かの者は罪の秤手にして裁定者、犯せし罪を量り裁きを執行する天の代弁者にして門番
かの者の名はバランシウス
かの者の裁きを越えし時、天へ挑む資格は与えられん”」
俺が読み上げた文章を聞いてアリア達もまじまじと扉を見る、そして俺も考えていたであろう事を口にした。
「犯せし罪ってどう考えても下で破ったルールの事よね…?」
「ええ、それにバランシウスは私のトゥルーティアーと同じ正教の原典にも名を連ねる名持ちの天使の一柱です」
バランシウスは俺も知っている、天の門を守る番人であり門を通る資格があるかを神より賜った天秤で量る上位の天使だった筈だ。
「…本来ならレアドロップになっていてもおかしくないのが相手って訳か」
俺達が破ったルールは三つ、四十層ともなれば下の中ボスより弱い筈はないだろう…それが更に強化されている状態となっている訳だ。
だが言い換えれば全開の状態で戦わずに済むという事でもあり、強化もどのようなものかは破ったルールから推測する事は出来る。
扉に手を掛けて僅かに開いたところで漏れ出た空気に違和感を感じ取る、そして漏れ出る音に耳を疑った。
「誰か戦っている…?」
別の冒険者が先行していた?それだと俺達がエルフォードに会っている間に来ていたとしても中ボスがこの短い期間で再出現する事は有り得ない。
ブラストペインの様な存在がいる?だとすればその存在を彼が知らない筈がないし言及していておかしくない。
一瞬の間に様々な考えが頭を巡る、考えるのやめて扉を開くとその正体は明らかになった。
朽ちた裁判所を思わせる様な広間の中心で翼の半数を斬り裂かれ傷だらけの巨大な天使…バランシウスが相対する者に剣を振るっている、そして手にした天秤が傾いた。
「“轟雷雨”」
天秤が傾いた直後に相対していた男は上級の雷魔術をバランシウスに放つ、これまでのダメージの影響かまともに受けたバランシウスは苦悶の声を上げながらも再び天秤が傾くと襲っていた雷が消えていく。
その直後に男は一瞬で距離を詰めるとバランシウスの天秤を持つ腕を斬り落とす、そして駆け上がる様にしてバランシウスのこめかみに剣を鍔まで埋まるのではないかというぐらい突き刺すと両腕で頭を抱え込み勢い良く捻った。
骨が折れる鈍い音の直後に首があらぬ角度に曲がったバランシウスは力を失った様に膝をつく、そして崩れていく巨体は魔石となって床に落ちた。
「…ここまで来たか」
バランシウスと戦って息一つ乱れていない様子でロウドは俺達にそう告げた…。