183:執行
大天使は走りながら燃え盛る棍棒を振り下ろしてくるセレナの腰を掴んで左に避けるとアリアとシュリンは右に避けた。
振り下ろされた棍棒から炎が噴き出す、風魔術で炎を逸らし、セレナは水の盾でアリア達を守った。
「アリア!火を使うな!」
「えっ!?」
「この部屋では火を使ってはならない法がある!破れば罰を下す為に強い魔物が現れる
!」
「…もう!他の魔術はそこまで得意じゃないのに!」
俺の言葉を聞いたアリアはすぐに発動していた焔を解除する、風魔術を剣に付与して荒れ狂う炎をいなしていった。
シュリンは炎を避けながら大天使に矢を射つ、だが巨体に見合わぬ俊敏さで大盾を動かして矢を弾いた大天使は棍棒を振り回して炎の嵐の如く暴れ回った。
炎はセレナが全員に水盾を展開しているお陰で防げてはいるがこの膂力と頑強さは間違いなく中ボスに匹敵する強さだった。
「…仕方ない」
この先に進まなければならない俺達には長期戦は不安要素が大きい、ましてや最難関のダンジョンで出し惜しみをして結果的に消耗してしまったら意味がないだろう。
…なら速攻で片を付ける。
「全員、俺を援護してくれ!」
剣に闇を纏わせながら走る、荒れ狂う炎をセレナの水魔術が防いで道を開ける。
大天使は接近する俺に向けて棍棒を振り下ろそうとするがシュリンが矢を面頬の隙間に射ち込み、アリアが足首を斬りつける。
「下がっていろ!」
俺の言葉にアリア達はすぐさま大天使から距離を取る、“風跳”で大天使の頭上まで飛び上がると闇の嵐を纏った剣を振り下ろす。
巻き起こった闇の嵐が大天使を拘束する様に降り注ぐ、幾千幾万の黒い刃からなるトンネルに身を投じながら力ある言葉を口にする。
「軍装展開“黒纏う聖軍”」
漆黒の鎧を纏いながらトンネルを潜り抜け闇の嵐を剣に集め加速する、大天使の脳天に剣を振り下ろすと闇の嵐を纏った剣は頑強な兜を砕きながら下りていく。
「“黒刃嵐舞”」
全てを斬り裂き砕く魔剣と化した剣を振り下ろしながら着地すると同時に鎧を解除する、真っ二つになった大天使は力を失って棍棒と大盾を床に落とした。
轟音を立てながら落ちた棍棒と大盾と共に大天使の巨体は崩れていく、頭上で形成され落ちてきた魔石を取ってひとまず突破する事は出来たと息をついた。
―――――
「じゃあ、この階層にはルールがあってそれを破るとボス級の魔物と戦う事になる訳ね」
「ああ、扉とあの魔物の盾に書かれていた文から考えるとあれは罰を下す執行者みたいなものなんだろう」
「厄介ですね、この上もあの扉と同じ状態だとすればどんなルールがあるのか確証が持てませんし」
「それに色々なルールを想定して行動を制限してたらあの天使の状態でも危険だと思う」
シュリンの言う通りだった、融合する前の状態でも天使達の強さは魔物の中でもかなりのもので下手に戦い方を制限すれば討伐難易度は大して変わらなくなるだろう。
あらゆるルールを想定して天使達と戦うかルールを破るのを承知で戦いボス級の魔物と連戦するの可能性を選ぶか…上層だけあって厄介さが随分と増していた。
「…ひとまず次に行こう、全員で扉にあるルールを想定して戦い、もし破ってしまったらその時はその時だ」
我ながら行き当たりばったりな方法だと思いながら全員で奥へと進んだ。