18:情欲の焔
再び火口を昇って最上階の部屋へと戻される、鞭をほどかれ投げ出される形になるも宙で体勢を直して着地する。
俺と相対するのはファイアドレイクに勝るとも劣らぬ体格の魔物だった、二足歩行の獅子に見えるが燃え盛る鬣と角に蝙蝠の翼、手には炎の剣と鞭を握っていた。
「バルログ…初めて見たな」
炎の悪鬼とも呼ばれる強大な魔物で熟練の冒険者すら戦うのを避ける存在だ、少なくともこのダンジョンで出るという報告は聞いた事がなかった。
カオスクルセイダーを斧槍に変化させて構える、バルログを警戒しながらも火口に目を向けた。
(アリア…)
―――――
「はぁぁぁっ!!」
一息で踏み込んで長剣を振るう、ルスクディーテの首、胸、腹を狙って振るった連撃は扇の様に広がり伸びた指の爪でことごとく防がれた。
「速さも重さも悪くはない…が、足りぬ」
火花を散らしながら長剣が弾かれると続け様に爪による斬撃が迫ってきた。
「くっ!!」
振り下ろされた五爪の衝撃が受け止めた長剣を通して伝わる、連続で振るわれる爪は一度でも受け損なえば一瞬で八つ裂きにされると理解できた。
「…はぁ!」
「ほぅ」
爪を受け流して斬り返す、ルスクディーテは火の粉を散らしながら飛ぶと宙で身を翻して猛禽の様な脚と爪を繰り出してきた。
長剣で防ぐも衝撃を殺しきれず弾かれる様に後ろに飛ばされる、すぐさま構えるがルスクディーテはそのまま上昇すると頭上に火球を出現させた。
「燃え尽きるが良い」
火球に凄まじい熱が込められて落ちる、火球は部屋の中央に落ちると爆炎が部屋全体を覆い尽くすほど広がった。
「こんなところか…む?」
部屋の炎が消える寸前に飛び出してルスクディーテに斬り掛かる、交差した爪で受けられるが『燃焼炎閃』を発動して噴き出す炎の勢いが乗った長剣はルスクディーテを地面へと落とすがすぐさま身を翻してこちらを見た。
「…成る程、炎に焼かれる直前にその技で炎を相殺したか、咄嗟の判断と行動にしては中々のものよ」
ルスクディーテはそう呟くと右手の爪を揃える、爪に炎が宿るとそれは凄まじい熱気を放った。
「なっ…」
「この技は我もバルログを屈伏させた時に使ったのでな」
そう言うとルスクディーテは炎を宿した爪で手刀を繰り出してくる、炎の刃と爪による鍔迫り合いとなるがやがて地力の差が出てきて弾き飛ばされる。
「くっ!」
「しまいじゃて」
体勢を立て直そうと立ち上がった瞬間、目の前には数百もの羽根の形をした炎が囲う様に展開されていた。
「剣の腕も悪くはない、我との力の差を理解しながらも臆する事なく食らいつかんとする気概も見事…しかし情欲の焔たる我を昂らせるには至らぬわ」
ぱちんと指が鳴らされる、そして周囲の羽炎が一斉に自身に向かってきた…。
(あ…)
迫る炎がやけにゆっくりに見える、カオスクルセイダーに殺されかけた時の様に走馬灯が頭を駆け巡った。
「…嫌だ」
長剣を握って魔力を流し込む、流し込まれた魔力は魔術となって再び刃に炎を宿した。
「私はもう…」
魔術によって生まれた熱が全身を駆け巡る、上昇した体温と熱くなった血潮に任せて体を動かす。
「諦めない!!」
長剣を振るいながら走る、迫る羽炎を斬り払うも消し飛ばせなかったものが手足を刻むが構わず突破する。
「“約束”を、守るんだ!!!」
長剣に込めた魔術が掴む手を焼く、それでも長剣を握る力をより一層強くして地面を蹴った。
白熱化した刃にルスクディーテが目を見開く、振り下ろされた白刃を赤熱化した両手の爪を交差させて受け止めた。
「はぁぁぁぁぁっ!!!」
「む、うぅ!?」
白熱化した長剣はルスクディーテの爪に喰い込み、斬り落とした…。