176:鋼の迷路
変形した腕は丸い鋸の様な形になって回転する、振りかぶられた鋸は耳に響く音を立てながら迫るが剣を鋸の刃がない手首を狙って受ける事で止める。
だが見た目以上に強い力を持っているメタルスケルトンは鋸を押し込もうとしてくるが左手に手甲を嵌めた拳で肘を叩いて打ち上げる。
「“風鳴衝波”」
腕が上がった瞬間に右手にも手甲を嵌めて胴体に叩き込む、金属の軋む音と擦れる音を響かせながらメタルスケルトンは後退すると顎が変形して黒い筒をこちらに向けてきた。
「セレナ!」
俺が叫ぶとセレナはメタルスケルトンと俺達の間に水の盾を展開する、その直後に筒から閃光と炸裂音が鳴り響いた。
(やはり銃も備えてたか)
水盾に弾丸が立て続けにぶつかる、銃声と小さな金属の筒が床に落ちる音がしばらくしていたが金属が小さく打ち合う音と共に攻撃が止んだ。
それと同時に俺とアリアが動く、俺が騎兵槍で胸部を貫いてアリアが焔剣で首を斬り落とすとメタルスケルトンは俺に向けて鋭い爪を振り回してくるがやがて眼から光が消えると魔石に変わっていった。
「手強かったな」
魔石を拾いながら呟く、大きさは俺達と変わらないが“風鳴衝波”を受けても揺るがない耐久性に強固な装甲…何よりも銃が厄介だった。
あの小さな弾丸で並の防具なら貫ける威力を連続で撃たれたら防げるのは俺とセレナくらいだろう、軌道が直線的だから広い場所なら避ける事は可能だが狭い場所や複数で現れたら面倒なのは確かだ。
「…でも下より数が少ない」
「本当か?」
「風に乗ってくる気配が下よりも少ない、少なくともさっきのみたいに徘徊してるのは避けて進める」
「なら多少遠回りでもそうやって進むべきだな」
この階層は下層と比べると複雑な構成をしている上に通路が多い、リスクを少しでも減らして動くべきだろうと考えていると通路のランタンが一斉に赤く明滅して無機質な声が鳴り響いた。
「“ガードマシンが破壊されました、警備システムに基づきラビリンスの構造を変更します”」
「警備システム…?」
聞き慣れない言葉の意味を考える間もなく階層が揺れる、そして壁が音を立てて動き始めた事でこれから起きる事を察知した。
「全員足下と周囲に気をつけろ!分断される可能性がある!」
揺れと動く壁に警戒していると左右から壁が迫る、棍を水平に持って構えるとつっかえ棒となって壁の動きが鈍くなる。
「今だ!」
アリア達はすぐに前に進んで壁から逃れる、俺も棍を手放して迫る壁から抜けると棒は左右から迫る壁にめり込んでいくのが見えた。
棍を消すと壁は完全に閉じる、揺れや動きが治まって辺りを見渡すとそれなりに広い部屋に思える場所にいた。
「…まあ簡単には進ませてくれないよな」
「「「侵入者発見、排除」」」
部屋にはガードマシンと呼ばれていたのと似たのが三体、腕を銃に変えながらこちらに歩いてきていた…。