169:争奪と闘争が蔓延した広間
階段を上がった先にあったのは暗闇だった、足下すら見えない闇は上がってきた階段以外から差し込む光はなく俺でも見えそうにない。
鉄の棒の先端に魔石を取り付けられる特製のトーチで辺りを照らすと不揃いな格子状の床が見えた。
床の下には上を向いた杭が所狭しと並べられており、床の隙間は人一人が落ちるには充分な大きさのものもあった。
「シュリン、上への道は分かるか?」
「うん、此処から真っ直ぐ」
「なら俺が先に行く、アリアは殿を頼む」
「任せて」
各自がランタン等を準備してから格子状の床を慎重に歩く、この部屋はかなり広い様で眼が暗闇に慣れてきてもまだ向こうの壁は見えない。
感覚的に部屋の半ばまで来たところだろうか、目の前に一際大きい穴が見えた。
床の隙間に足を取られない様にしながら穴を迂回しようとしたところで穴の縁に魔力を発しながら光を反射するものが落ちていた。
(金貨?)
トーチをそちらに向けて見てみるとそれは一枚の金貨だった、俺達が使っている様な鋳造の貨幣ではなく戦士の像が精緻に彫られた特注品の様に見える。
「っ!?」
金貨を見た直後に穴から凄まじい速さで現れた手が金貨を掴む、手の主である這い出てきたミイラは生々しく血走った眼でこちらを見た。
「…良イ物、持ッテルナ…寄越セ!」
飛び掛かってきたミイラを剣で真っ二つにする、空中で左右に分かれながら霧散するミイラの手から落ちた金貨が甲高い音を立てた。
穴から炎が吹き出て部屋に明かりが灯る、不揃いの格子状の床の下には杭以外にもこちらを見上げるミイラ達が居り、壁から天井にびっしりと埋め込まれた数えるのも馬鹿らしくなる程のミイラやスケルトン等の不死の魔物達が一斉にこちらを見ていた。
壁から砂埃を立てながらアンデッド達が這い出て包囲してくる、中には錆びた武器を手にした者も居り、血走った眼と地の底から響く様な声で吐き出した。
「寄越セ」「宝」「武具」「金」「欲シイ」「貰オウ」「奪オウ」「寄越セ」「寄越セ」「寄越セ」「寄越セ」「寄越セ」
「「「寄越セッ!!!」」」
アンデッド達が一斉に襲い掛かる、アリアが焔を扇状に放って焼き払い、セレナが水の障壁で遮った。
シュリンが天井に向けて矢を放つ、矢は天井スレスレで破裂すると破片が数十の刃となってアンデッド達に降り注いだ。
アリア達の攻撃で殺到したアンデッド達は霧散するが続け様に壁や天井から新手が這い出てくる、舌打ちしながらも闇の斬撃を迫ってくるミイラに向けて放ちながら叫ぶ。
「階段まで急ぐぞ!」
迫りくるアンデッド達を蹴散らしながら全員で奧の階段へと向かった…。