168:中層
「倒せたわね」
「ああ」
ダイボラスの魔石を回収して集まるとアリアが声を掛けてくる、そしてシュリンが首を傾げながら聞いてきた。
「でもなんで水が弱点だって分かったの?」
「正確に言えば水が弱点なんじゃなくてセレナの使う術が弱点と言うべきだな」
「セレナ?」
「アリアがアイツの左腕を斬った時、そこだけ傷が深く入っていた…セレナが牽制で撃った水弾が当たった箇所がな」
水弾が当たっていた箇所を示しながら説明を続ける。
「扉に彫られた彫刻や殉教の二つ名からしてアイツは権力や信仰の為に犠牲になった人達の無念が集まって生まれたんだろう。
だからこそ犠牲になった事を悼み弔ってくれる者…要は聖職者であるセレナの術は強い効果が出た訳だ」
「成る程…でもどうして今まで解明されてなかったのでしょうか?」
「一番の理由はここまで来れる聖職者がいなかったからだろうな」
グルシオ大陸はヒューム大陸に比べて宗教は重要視されていない、信仰の為に冒険者になる者もいるにはいるがそれは本当にごく少数だ。
例え扉に彫られたものの意味が理解出来ても本来戦う職じゃない者を連れてこようとは思わないだろう。
「それで…ひとまずこのまま進む?」
「一旦休もう、ただでさえ最難関のダンジョンに挑んでるんだ…休める内に休んでおかないと見えないところで負荷が溜まる」
「そうね、それに中ボスを倒したからこの部屋はしばらく安全地帯になるし」
ボス部屋はボス以外の魔物は出現しない、それは一度倒せば再出現するまではその部屋で襲われる事はなくなる。
基本的にボスは再出現までかなりの時間が掛かる事を利用したもので熟練の冒険者が良く使う方法だ。
「と言ってもフィフスが何かしら細工してくる可能性はあるからな…二人で見張りを交代しながらにしよう」
そうして二時間ほど休んで消耗した体力と魔力をある程度回復させてから奧の階段へと向かう、此処から先は平時であってもガイロン達が途中で引き返しざるを得なかった領域だ。
“天へ挑んだ塔”中層…“争奪と闘争が蔓延した広間”は下層とは比べ物にならない魔物の数と悪辣な罠が獲物を待ち構えているのだから…。