162:最後の戦いへと
「まあ、正直予想はしてたわ」
翌朝、俺とシュリンを見ながらアリアはそう呟いた。
「…すまない」
「良いわよ、ベルクが獣なのは初めからだもの」
「ぐっ…」
言い返したいが俺とアリアの経緯が経緯なので何も言い返せない、ルスクディーテはこれでもかと言うくらいイヤらしい笑みを浮かべていた。
「ははは、何はともあれこれからはベルクの精を思う存分搾り取れそうじゃな」
「ルスクディーテはともかくとして、シュリンさんも私達の仲間になってくれるという事で良いでしょうか?」
「それで良い、私はベルクの力になりたい…なにより」
シュリンは胸に手を当てながら眼を閉じる、そして思いを形にする様に言葉にした。
「此処は私と父様が過ごしてきた思い出の場所だけど…父様は私がこのままでいる事なんか望んでないから、父様の願いは土の中には埋まってないから…だから私も戦う」
「…強いんですね」
セレナの言葉にシュリンは首を横に振って答えた。
「まだ強くない、強くなるのは…これから」
「それでも頼もしいです、改めてよろしくお願いしますねシュリンさん」
「シュリンで良い、さんはいらない」
「分かりました、そう呼ばせてもらいます」
セレナとシュリンが朗らかに言葉を交わす、能力や戦闘スタイルから二人は後衛となるからギクシャクしないで済むのはありがたい。
「…ひとまずはこれからの事を話そう」
俺がそう言って全員の視線を集めるとエルフォードが残した資料を手に取る、最後のページを開いて全員に見える様に卓に置いた。
「エルフォードが最後に残したのはフィフスの術式に対する推測や作戦だ」
そう言って資料の一部を示しながら説明を始める。
「フィフスの組んだ召喚の術式はおおよそ完成している、仮に塔を破壊できたとしても召喚を阻止する事は出来ない」
「ならどうするの?」
「俺達が使ってるのとは違っても魔術は魔術だ、これほどの規模の術式となると構成する為の核も相応のものになる、だからその核を見つけ出し破壊すれば召喚を阻止できる」
「つまり私達がやるのは核の破壊とフィフス達を倒すという事ですね」
「そうだ、それでなんだが…ロウドの相手は俺がしている間にアリア達は核を破壊してもらいたい」
俺の言葉にアリア達は一斉にこっちを見た。
「ロウドは必ず俺を狙って出てくる、だが言い換えればロウドを俺一人で押さえてしまえばアリア達は核の破壊とフィフスを討つのに専念できる」
「…私達全員でロウドを倒すというのは?」
「俺達の第一の目的はフィフスの企みを阻止する事だ、ロウドは後回しで良い」
「そうね、それに私達ならロウドを倒せるかも知れないけど…その間に召喚されたら元も子もないわ」
「ついでに言えば…三人なら核の破壊に丁度良く役割分担が出来る、シュリンが見つけてセレナが補助してアリアが壊す…。
現状これがベストだと思うが他に案はあるか?」
全員が異論はないと頷いたのを確認して締めの言葉を口にする。
「フィフスを倒して全員生きて帰る、俺達の未来を取り戻すぞ」
「ええ」
「はい」
「うん」
「くふふ」
準備を終えた俺達は“天へ挑んだ塔”へと出発した…。