159:答えの出し方
手紙を手にしてアリア達のところへ戻る、部屋にはベッドの上で座り込むシュリンと見守っているアリア達がいた。
「様子は?」
「傷は治しましたが、起きてからはずっと…」
「分かった、二人にしてくれ」
俺がそう言うと二人は部屋を出ていく、俺はベッドの端に座ると俯いているシュリンに手紙を差し出した。
「エルフォードが残した手紙を見つけた」
俺の言葉にシュリンは顔を上げて差し出された手紙を見ると受け取って読み始める、しばらく部屋は静寂に包まれていたが手紙に雫が落ちる音がした。
「私は、どうすればいい…?」
かすれる様な声でそう呟いた。
「私は父様とエイルシードが一緒にいてくれたらそれで良かった…他は何もいらなかった…でも、もう父様はいなくて…一族だっていなくて…父様の仇を討つ事も出来なくて…どうすれば…」
眼から大粒の涙を流しながらシュリンは心情を吐露する、今にも崩れ落ちてしまいそうな弱々しい姿だった。
「…ベルクが羨ましい、私も父様に託されるくらい強ければ迷ったりなんか…」
自分でも何を言ってるのか分からなくなっているのだろう、それほどまでにシュリンは情緒がぐしゃぐしゃになってしまっている。
「…」
俯くシュリンの頭に手を置いて落ち着かせる様に撫でた。
「…俺も同じだった」
「え…」
「俺には優秀な兄貴がいる、優しくて、色んな人に期待されて、結果を出して、自分のなりたいものの為に努力する凄い人だ」
シュリンを見ながらも過去の自分を思い出す、追い詰められて暗闇の中を彷徨っていたあの頃を…。
「俺は兄貴みたいに期待に答えられなかった、優しくする事も結果を出す事も出来なくてどうすれば良いか分からなかった…どうすれば良いのか、自分はどんなものになれるのか…その答えを誰かに教えて欲しかった」
「…」
「だが…その答えは自分にしか見つけられない時もある」
シュリンの涙を拭ってやりながら目線を合わせて自分なりに至った結論を伝える。
「だからどんなに辛くて苦しくても、自分が何を成したいのか、自分は何者なのか…その答えは自分の心に聞いて見つけ出さなきゃならないんだ」
ゆっくりと手を離して立つ、部屋を出る直前で止まって告げた。
「工房は魔力を供給しておいたからしばらくは保つ…だが俺達は準備が終わったら“天へ挑んだ塔”に向かう」
「っ!」
「明日か、少なくとも明後日には出る…どうするかそれまでに考えてくれ」
そう言って部屋を後にした…。
―――――
部屋の外で待っていたアリアとセレナにエルフォードの残した資料を渡す、そして三人で準備を始めるとアリアが聞いてきた。
「シュリンはどう?」
「分からん…だがどんな選択をしようと力にはなるつもりだ」
選択肢は与えた、それにシュリンにはエイルシードがいる…どうするか一緒に考えてくれるだろう。
「ふむ…であれば今夜は我等を抱け、ベルク」
魔物の姿に戻ったルスクディーテが開口一番そう告げる、思わず頭を押さえた。
「こんな時まで…」
「こんな時だからこそだ、我等が戦う相手はこれまでとは比べ物にならん脅威なのは明白…ならば生きて帰る理由は多いほど良い、それが情欲であろうとなんであろうとな」
ルスクディーテはそう言って俺達を見ると諭す様に告げた。
「生きてまた美味いものを食いたい、また愛するものを抱きたい…その“また”という次を求める心こそが人を生かすものだ。
だから今一度抱いて再確認しておけ、必ず全員で生還して思う存分求め合おうとな」
「…まあ、一理ある気はするわ」
ルスクディーテの発言にアリアはそう言う、セレナは頬を赤くしながらも否定はしなかった。
そうして今夜はアリア達を抱く事になった…。