16:真の最奥
「逢瀬に涙した間」、「別離に苦しんだ渓谷」と刻まれた階層を越えて最上層「不死者が身を投げた火口」へと辿り着く。
円形の窪地には中心に強い熱と光を発する火口がある、二人で火口に向かって歩くと火口から6m近い大きさの竜が勢い良く飛び出してきた。
「ファイアドレイクだ、気をつけろよ」
「ええ、そっちもね!」
互いに武器を手に二手に別れる、ファイアドレイクが翼をはためかせてアリアにブレスを放とうとした頭に手斧を投げる。
手斧は狙い違わず命中してブレスを吐くタイミングを遅れさせる、その隙にアリアは身体強化で加速しながら跳躍すると片翼を斬り裂いた。
「――――――ッ!!」
ファイアドレイクは咆哮を上げながらもブレスを撒き散らしながら降り立つ、俺はブレスを掻い潜って懐まで迫ると手元の小剣を長剣へと変化させて振り抜いた。
脚を深々と斬り裂かれながらもファイアドレイクは尻尾を振るってくる、即座に跳び下がりながら長剣を盾にして尻尾を受けるが丸太の様な一撃は軽々と俺の体を吹き飛ばした。
「つぅっ…!」
地面を転がりながらも手の長剣を再び変化させる、ファイアドレイクは再びブレスを吐こうとしたが背後からアリアが尻尾を半ばから断ち切った。
(竜の鱗と骨を斬れるとはな…)
ファイアドレイクは反転して鋭い爪をアリアに振り下ろす、だがアリアはそれを流麗な動きで避けると続け様に放たれる攻撃を避け様に斬りつけていく。
感心は隅に追いやってその間に変化させていた弓矢を番え構える、引き絞った弓から魔力を込めた漆黒の矢が放たれファイアドレイクの眼を穿った。
「―――――ッ!!?」
眼を穿たれた痛みに苦悶の声が上がった瞬間、アリアは逆袈裟に長剣を振るって片腕を斬り落とす、そして勢いのまま体を回転させてファイアドレイクの首を斬り落とした。
魔石を拾うアリアの方へ向かいながら武器を元のふたつに戻す、今の俺ならふたつまで武器を出せるようだ。
「お疲れ様、仮にもボスをこんな簡単に倒せるなんて思わなかったわ」
「二人ならこんなものだろう、それより…」
話もほどほどに中心の火口へと近づく、アリアは火口を覗いてみるが溢れる熱気に思わず顔を引いた。
「改めてやるとなると少し怖いわね…」
「戻るか?」
「冗談、ようやく得たチャンスを無駄になんてしないわ」
強い覚悟を宿した瞳に見返される、愚問だったと少しだけ笑いながら火口へと向き直った。
「なら行こう」
自分とアリアに風を纏わせると火口の中に飛び込む、続けてアリアも飛び込んで火口の中へと落ちていった。
視界が瞼越しでも炎の光を感じ取って眩しく、纏う風を貫いて熱気が肌に刺さる、だが身体や衣服が燃えるという事はなく、少しして光と熱から突き抜けたのを感じ取って目を開けて纏った風を下へと放つ。
風は落下速度を殺して二人をゆっくりと地面に降り立たせる、見渡すとそこは円形の広大な部屋で壁際を堀の様に溶岩が流れており、壁には色とりどりの宝石や鉱石が散りばめられていた。
「はははははは、よもやここまで来る者がいるなど予想していなかったぞ」
突然響いてきた声に身構える、声のする方に振り向くとそこには玉座を思わせる様な長椅子が置かれた間があり、その上で炎が燃え上がって徐々に姿を形作っていく。
「とはいえ折角の客人だ、名乗るのも一興よ」
それは妖艶な女の姿をしていた、類稀な美貌に豊満な胸と尻でありながらくびれた腰にすらりとした脚は男女問わず魅力的だと思うだろう。
だが毛先が焔の様に揺らめく紅蓮の髪と背の翼が彼女を人ならざる者だと物語っていた。
「我はルスクディーテ、よくぞ我が下に辿り着いたな人間」
ルスクディーテを名乗る魔物は妖しい笑みを浮かべて俺達を見据えてきた。