157:届かぬ風
「うああああああっ!!」
幾つもの棘が生やした弓を振り下ろす、ロウドはなんなく避けるが身体を回転させて頭に鉤爪の付いた脚を振り下ろす。
だけど避けられて剣の腹で殴られて転がされる、殴られた箇所が痛むがすぐに立ち上がって矢をつがえる。
「くっ!?」
つがえた矢を蹴り飛ばされる、手に鉤爪を付けて斬りつけるが手首を掴まれて捻り上げられる。
「…奴に育てられた娘か、良い動きをする」
「っ!」
弓から様々な種が生えた蔦を伸ばす、手にした剣で蔦を斬り払われながら腹を蹴られた。
「だが未熟だ」
腹を蹴られて再び地面を転がる、余りの威力に展開が解除された。
「うぅ…」
「激情は強くなる要素のひとつに成り得る、だが飼い慣らせず振り回されれば冷静さを損ない力を活かせなくなる」
弓を持つ手を踏みつけられる、そのまま首を掴まれて持ち上げられた。
「お前のレアドロップは中遠距離からの搦め手こそ真価なのだろう、この様な場所ではその特性も動きも活かせん」
「黙れ…お前の言葉なんか…聞きたくない!」
「…あの男に本当の父の如く情を抱いたか、ならば共に逝くが良い」
剣に白亜の光が宿る、自分の命がもうすぐ奪われるという事実にあらゆる感情が込み上げる。
悔しかった、父様を殺したこの男に手も足も出ない事が…自分の本能がこの男との圧倒的な差を感じ取っている事が…父様の仇すら討てない無力さが…。
目の前に迫る死に泣きそうになってしまう自分が…。
「さらばだ、エルフォードの娘よ」
ロウドが上から飛来するものを感じ取ってシュリンを放して下がると先程まで立っていた場所に漆黒の剣が突き立つ。
直後に降り立った影がロウドに迫る、闇を纏った剣と光を宿した剣が幾度も交差して火花が主なき工房を照らした。
「…見ない間に随分と力をものにした様だな」
鍔迫り合いとなるとロウドが笑みを浮かべる、互いに後ろに跳んで剣を構える。
「…エルフォードを殺す為だけにジャガーノートを引っ張り出してきたのか」
「あの男は持つ智恵そのものが脅威だ、かといって俺一人ではお前達がいるとなれば奴を取り逃すやも知れぬ…。
結果として間違ってはいなかったという事だ」
「…そうまでしてフィフスが呼び出そうとしているものと戦いたいのか」
「そうだ、奴はそれを世界を喰らい尽くす魔神と呼んでいた…それほどの存在と俺は戦ってみたい」
ロウドは剣を下ろすと背に光の翼を展開する、そして俺を見ながら告げた。
「ベルク、“天へ挑んだ塔”に来い。
魔神とやらが気に入らんならば俺とフィフスを倒して阻止してみせろ。
そこでお前を喰らってやろう…」
ロウドはそう言って飛び去る、追うべきか考えるが消耗しているのとシュリンを放っておく訳にはいかなかった。
気を失ったシュリンは涙を流していた…。