155:囮
(シュリンside)
纏うのは翡翠の様に煌めく鳳を模した衣、翼や脚に備えられた鉤爪を除けば全てが植物で編み出された具足にはあらゆる草花の種や根が宿っている。
鉤爪を地面に喰い込ませて身体を固定すると弓を水平に構え矢をつがえて精神を集中させる。
「大樹形成」
そう唱えると私の前に生える草達が凄まじい速さで成長して絡み合い巨大な樹になる、樹は更に形を変えていった。
枝が弧を描く形をした樹は知る者が見れば大型弩砲を連想するだろう、大樹の大型弩砲には螺旋を形成した丸太の如き大矢が装填されていた。
再び動き出そうとするジャガーノートに狙いを定めて弦を引くと大型弩砲も連動して弦が引き絞られる、そして鏃を中心に風が集まっていき周囲の木々がざわめいた。
「魔晶花、発射」
引き絞った弦を放すと風が乗った矢が大型弩砲の大矢に衝突して鏃に凝縮した風が解き放たれると同時に大矢が勢い良く射出された。
唸りを上げて大気を裂きながら大矢がジャガーノートに向けて真っ直ぐ飛ぶ、そして装甲の隙間を貫いてジャガーノートの内部を穿ち核へと届く。
そして先端の螺旋が開くと妖しく輝く種が核に触れて芽を出した。
「――――――――――ッ!!!」
ジャガーノートがこれまでとは違う咆哮を上げる、巨体を激しく揺さぶりながら悶える身体からは蔦が生えて伸びていった。
…魔晶花とは一部のダンジョンにしか咲かない樹木だ、魔力を吸って紅水晶の様な花を咲かせるが魔力濃度の高い場所にしか生息できないので開花したものを見た者はいないとされている。
それが今ジャガーノートの核に根を張り急速に成長していた。
「―――――――――――ッ!!!」
ジャガーノートは悶えながらも復元した足で踏ん張りながらブレスを吐こうとするが…。
黒と紅の影がジャガーノートの頭上へと飛翔する、そして示し合わせたかの様に同時に急降下した。
「大人しく!」
「止まってろ!」
闇を纏った剣と焔を纏った剣が交差して振るわれる、斬り裂かれてブレスの行き場を失ったジャガーノートの頭部は爆発を起こし、巨体は力を失った様に傾いて轟音を響かせながら倒れた…。
―――――
「倒した…のよね?」
「ああ…再生する様子もない、完全に機能停止している」
全員が集まって紅の花を咲かしているジャガーノートを見上げる、他に罠や見落としはないか見渡しながら俺はふと考えていた。
(何故フィフスはこれを寄越したんだ?)
俺達を狙ったんならウォークリアにこれが行ってもおかしくはない筈だ、なのにこれは真っ直ぐと俺達がいるこの場所へ来た。
奴に俺達の居場所を探知できる術があるのか?だがそうだとしたらジャガーノートに他の魔物やこれ自体に爆弾を仕掛けて俺達諸共をしているだろう。
それもなく俺達にこれを宛がった理由…俺達を倒すのに重きを置いてないとするならば…。
(結界が壊された)
「っ!?」
岩山を振り返る、俺の推測が正しければまんまと罠に引っ掛かってしまった。
「急いで戻るぞ!」
「え?」
「こいつは囮だ!奴等の狙いは俺達じゃなくてエルフォードだ!」
「…父様!」
シュリンが風を纏っていの一番に岩山へと飛ぶ、俺達もすぐに後を追った。