150:変わらぬ覚悟
「私から話せるのはここまでだ、長い話に付き合わせて悪かったね」
「いや、貴重な話が聞けた…正直思っていたよりも濃密で衝撃的ではあったけどな…」
思わず頭を手で押さえながら情報を整理しようとする、だがフィフスの目的やロウドが現代のにいる理由…そしてカオスクルセイダーに関しての事は流石にすぐに整理するとはいかなかった。
「ふむ、ここまで休みなく来て話を聞いていたのだから疲れるのも無理はない。
雑な造りで申し訳ないが客間を用意してある、今日のところは休んでいきたまえ」
エルフォードはそう言って洞のひとつを示す、中を見てみると部屋の中には簡易なベッドが並んでおり机や燭台も置かれていた。
「凄いな…」
「此処に住む様になってから物作りを初めてね、素人の域は出ないが色々と作れる様になったよ」
「…ひとまずはお言葉に甘えて休ませてもらおうか」
そうして俺達はエルフォードの工房で一泊する事になった。
―――――
「今更だけど凄い事になったわね…」
ベッドに座ったアリアが呟く、後ろ姿でアリアの髪を梳かしながらセレナも同意した。
「私もカオスクルセイダーが世界を守る為に生み出された魔物とは流石に分からなかったです」
「セレナの話を聞いてから大きな事になるとは思ってたけどね…本当に物語の登場人物にでもなった気分」
「ふふ、だとすればベルクは勇者というところかしら」
「…柄じゃないな」
セレナの言葉にそう答えながらカオスクルセイダーの剣身を見つめる、幾千幾万の魂が込められた漆黒の刃は手のひらを通して確かな重みを伝えてきた。
「…思えばあの戦いから全ては始まってたんだな」
“黄昏の剣墓”でカオスクルセイダーを手にした事で全てを捨てた俺の傍にアリアが来てくれた。
帝国ではヴィクトリアとフィリアが、教国でセレナが、王国では捨ててしまったと思っていた兄貴達が…。
そうして空いてた筈の手には多くのものがあって何も背負ってなかった筈の背中にはいつの間にか色々なものを背負っていた。
「だが、もう捨てたりしない」
この手にあるものも、背負ったものも、全て大切なものなのだから…。
「やる事は変わらない…俺はフィフスを倒してロウドを止める。
だから力を貸してくれ、もちろん二人もな」
俺の言葉にアリアとセレナは頷きながら答えた。
「当然よ」
「ついていきます、最後まで」
同意するかの様にカオスクルセイダーも意志を伝えてきてくれた。
―――――
(エルフォードside)
「良い月夜だ」
洞の上から差し込む月光を見上げながら呟く、ベルク達もシュリンも眠りについてるから答える者はいない。
「一か八かの賭けだったがどうやら勝てた様だね」
託せるものは託した、やれるだけの事はやった、これから起きる戦いを考えれば心苦しいが後はあの少年に任せるとしよう。
「これで私の役割は終わりかな…」
唯一の心残りはシュリンだが、きっと彼がなんとかしてくれるだろう…。
彼は一人の少女を見捨てられる者ではないだろうから。
「娘を頼むよベルク君、私の命はもうすぐ尽きるだろうから…」
胸の白亜の剣に触れながら強まる自らの死の予感を静かに受け入れた…。