149:世界の守り手
「カオスクルセイダーが…人類を滅ぼす為に生まれた?」
漆黒の柄を握りながら聞き返すとエルフォードは頷きながら答えた。
「ダンジョンも魔物も想念によって生まれる、これはレアドロップになる強大な存在であろうと変わらない。
私のアビスコードやそちらのルスクディーテ、トゥルーティアー、エイルシード…そしてハイエンドも集まった想念がひとつになって生まれたものだ」
「そうなの?ルスクディーテ」
「ふん、生まれた時など覚えとらんわ」
アリアが聞くとルスクディーテはどうでも良いという様に茶を飲み干す、それを横目にエルフォードは話を続けた。
「だが…カオスクルセイダーは他とは違う、それはこれまでのレアドロップの様に生まれたのではなくこの世界によって生み出されたものだ」
「…世界に、生み出された?」
「うむ、想念を生み出すのは人間だけではない…程度の差はあれ想念は生きとし生けるもの全てが持つものだ。
そして我々が住むこの世界も想念を有している」
エルフォードは水で様々な生物を作っていき、やがてひとつの球体を作り出しながら説明を続ける。
「おそらくフィフスが呼び出そうとしているのは明確な意志を持って世界を滅ぼす存在…君達が呼ぶ“白き破滅”だろう、世界は自らの存続の為に本来レアドロップが生まれる筈がなかったダンジョンから滅びに対抗する存在を生み出した」
「…それがカオスクルセイダーなのか、だが滅びに対抗する為に生まれたのなら何故人類を滅ぼすんだ?」
「…カオスクルセイダーの能力は取り込んだ魂を力に変えるものだ、取り込む条件は無念を残した魂である事…ひらたく言ってしまえば報われない最期を迎えた者が対象になる。
…そして、突然現れた魔物達に殺されるのは誰からしても報われない最期だろう?」
「…まさか」
俺が気付いて呟きを漏らした直後にアリア達も結論に達したのだろう、エルフォードは答え合わせをする様に告げてきた。
「本来カオスクルセイダーは軍勢の力を以て人々を殺す事でその魂を取り込み強大になる“葬装”の魔物だった。
…カオスクルセイダーとは随分的を射た名前だ、人類に死と破滅という混沌をもたらす事で世界を救う救世の軍となるのだから」
「“葬装”の魔物…」
「だがベルク…君がカオスクルセイダーを倒した事で全てが変わった」
エルフォードはそう言って俺とカオスクルセイダーを見ながら言葉を続ける。
「君が倒した事で本来は残滓として消える筈だった戦士達の魂が目覚めた…その結果、カオスクルセイダーは人類に破滅をもたらす“葬装”から世界から与えられた力を持ったまま人類を守る“軍装”へと変化した」
場の視線が俺…カオスクルセイダーに集まるのを感じながらも黙って続きを待つ、そしてエルフォードはこう締めくくった。
「そしてカオスクルセイダーの全ての力を引き出せるのは…戦士達の魂から認められた君だけなのだよ、ベルク」