148:想念
「魔力の結晶…魔石とどう違うんだ?」
「そうだね…要約するならば想念が宿っているかどうかだ」
「想念…」
オウム返しに呟いた言葉にエルフォードは頷くと水晶を翳しながら問い掛けてきた。
「そもそも君達は魔物…ひいてはダンジョンがどうやって生まれるのか知っているかね?」
「いや…魔力が長年溜まり続けて出現するとしか…」
「間違ってはいない…が、何故魔力が溜まり続けるとダンジョンになる?
それならば都や街といった多くの人が集まる場所も魔力はかなりのものになるだろう、だがそれらがダンジョンになるという事はない」
「…言われてみればそうよね、それこそ魔道具の実験に使われる様な場所なんてダンジョンが出現してもおかしくないのに」
エルフォードの問いに揃って首を傾げる、昔からダンジョンや魔物はそういったものだという認識があってその原理に関して調べた事なかった。
「ダンジョンや魔物が生まれる理由…それは魔力に込められた想念が違うからだ」
エルフォードはそう言うと再び水を用いて図を浮かび上がらせた。
「この世界には全てに魔力が宿っている、生きているものは当然として土や草…果ては大気とあらゆるものにね」
浮かんだ水が様々なものを形作りながら最後に人の形となる、その周囲に淡い水の膜が浮かんだ。
「そして我々は訓練によって魔力に己の意思、即ち想念を反映して望んだ現象を起こす…これが魔術だ」
水人形が構えると水膜の一部が集まって玉になる、そして魔術を放ったかの様な動きをしてみせた。
「だが実を言うとね、人間は意識して魔術を使うよりも無意識の内に想念を宿して魔力を放出しているんだ」
「無意識の想念…」
「戦場跡に夜な夜な兵士が蘇って戦っているなどの話を聞いて恐れた事はないかい?
森には人を食らう巨大な獣や狡猾なゴブリンが住まうから行くなと言われた事はあるかい?
無意識の想念とはそうした漠然とした感情やイメージ…魔術として成立しなかった魔力はそう感じた場所へと留まり溜まっていく」
「つまりただの洞窟でも魔物がいると多くが考えれば魔物が現れる様になるという事か?」
「噛み砕いて言えばそうだね、特にこの魔大陸は遥か昔からそういった魔力が流れ着く特殊な地だ。
流れ着いた魔力によって何百何千年以上も掛けて数多のダンジョンが生み出されていき強大な魔物が現れる様になった」
そう語ったエルフォードは再び水晶に視線を移す、白く淡い輝きを放つ水晶に眼を細めた。
「これは術式を刻んだ魔石の周囲をエーテルで囲んだ代物だ、エーテルを精製するだけでも凄まじい技術だが…中に仕込んだ術式によって水晶を埋め込まれた者の願望を具現化させる」
「…今の技術じゃ到底造れるものじゃないな」
「ああ、相手はこれらを扱うフィフスだけでなくロウドまでいる…私はかつての戦いによって力はおろか此処から出る事すら出来ない状態だ。
…だから、私に出来る事はベルク…ロウドを唯一倒せるだろう君に力を貸す事だけだ」
「…俺が、唯一?」
エルフォードの言い回しに引っ掛かりを感じる、するとカオスクルセイダーを指しながら告げた。
「ハイエンドは世界すら滅ぼせる力を持つ最強格のレアドロップだ、その所有者たるロウドとフィフスを倒せるのは…全ての人類を滅ぼす為に生まれたカオスクルセイダーだけだろう」
エルフォードが告げた言葉に全員が唖然とした…。