147:実現の手段
「な、なんで?誰も成功した事がなかった魔術じゃないの?」
困惑しながらアリアが問うとエルフォードは頷きながらも答えた。
「受肉による召喚魔術に必要なのは呼び門、鍵、触媒…そして受肉する為の肉体だ。
まず門だがこれは塔に書かれた術式がそれに当たる」
塔の像に幾つもの線が複雑に交差して繋がっていく、絡み合った線はひとつの魔方陣となっていた。
「次に鍵だがこの水晶がそれだろう、これによって呼び出す存在をより具体的にする事で概念的存在だろうと具現化できる」
「鍵になるって…その水晶は一体なんなの?」
「詳しくはダンジョンや魔物達という存在が何故生まれるのかという話になるから後にしよう。
次に触媒だが…これは奴等に奪われたレアドロップが使われるだろう」
「なっ!?」
「召喚魔術の原則として呼び出すものが強大であればある程に使用する触媒も相応のものでなければならない。
だがこの魔術の等価交換はぼったくりでね…例えばドラゴン一体を呼び出すならドラゴン三体分に匹敵する触媒が必要になる」
「なにそれ、呼び出すくらいならその三体分を使う方が良いじゃない」
「うむ、だがレアドロップに内包される魔力は少なくともダンジョンひとつ分はある上に奴等はレアドロップに近い物を造れるのだろう?…それが複数となれば強大な存在を呼び出す触媒としては申し分ない」
「…そういう事か」
以前ヴィクトリアがフィフスと戦った時に言っていたという紛い物…あれはレアドロップに匹敵する触媒を奴は造ろうとしていたのだろう。
だがレアドロップに匹敵する物は造れずレアドロップを集める方法に切り替えた、バグラスが使っていた槍はその副産物なのだろう。
「最後に受肉の為の肉体だが…術式から推測するに“天へ挑んだ塔”そのものを使うつもりだ」
「…は?」
告げられた言葉に思わず素の声が出る、アリア達も互いに首を傾げていた。
「…ダンジョンにいる魔物じゃなくてダンジョンを肉体にする?そんな事が可能なのか?」
「正直私も信じられないが…術式の中には召喚魔術が起動した後に別の魔術が発動する様に組み込まれている、解読した中にゴーレムの製造に使われる術式があった事からの推測だ」
「ダンジョンをゴーレムに?馬鹿げてる…」
「全くだ…だが可能だとすれば顕現するものは相当に強大な存在になるだろう。
なにせ魔大陸でも最大級のダンジョンを使って造られた体だ…神すら顕現できても不思議ではない」
…普通の魔術師が今の話を聞いたら荒唐無稽だと一笑に伏すだろう、だがこれを行おうとしてるのはフィフスでその裏付けをしているのがエルフォードだ。
あの水晶や魔道具、そして何度も蘇る事を考えると奴なら実現できてもおかしくはなかった。
「もしかするとフィフスとやらは…私より遥か前から存在するのかも知れないな」
「どうしてそう言える?」
俺がそう聞くとエルフォードは水晶を示しながら答えた。
「この水晶…仮でエーテルと呼ぶが、これは魔石が魔物となる前の魔力の結晶とでも言うべきものだよ」