146:フィフスの目的
「これがかつて私とロウドの間に起きた事だ」
語り終えたエルフォードは一息つくと水で塔を形作る、それを見ながら悲し気に呟いた。
「封印を解いた者が誰なのか、その目的がなんなのかは分からない…封印が解けて目覚めた私はロウドに気付かれない為にすぐに地下へ潜り、この森へと辿り着いたからね」
「…それはこれから掴む事は出来ないか?」
俺はバックから塔に書かれた術式の写しと封印を施したあの水晶を取り出す、エルフォードは眼を細めて差し出したそれを見た。
「それは?」
「ロウドを目覚めさせたであろう者が“天へ挑んだ塔”に書き込んだ術式の一部とそいつが作った魔道具だ、これを埋め込まれた多くの人が魔物へと変えられた」
「…ふむ、見せて貰おう」
触手で術式と水晶を受け取ったエルフォードは水晶を手に取って見ながら術式を触手で広げて並べる。
湖の中から幾つかの蛸足が出ると足先に眼が出てきて術式をギョロギョロと見始めた。
「すまないがこれが使われた経緯やその者達がやっていた事を教えてくれんかね?」
「ああ」
水晶と術式の鑑定をしながらフィフスのこれまでの事を聞いたエルフォードはしばらく黙り込むと空いた手で頭を押さえた。
「どうやら私が想定していた以上に相手は厄介な者の様だね…」
「分かったのか?」
「まずはこの術式だが…使われている方式や文字からの推測だがこれは召喚魔術だ」
「…召喚魔術?」
「知らないのも無理はない、私達の時代でも使い手はおろか存在を知っていた者はごく僅かだろうからね」
エルフォードはそう言うと水で魔方陣を構成する、それはあの写しにあった文字も使って構成されていた。
「我々が存在する世界とは別の世界の存在を呼び出す、概念的存在を受肉させて実体化させる、そういった別次元へと干渉してこの世界に顕現させる魔術を総じて召喚魔術と名付けられた」
「別次元への干渉…そんな事が可能なのか?」
「理論上は…だがこの魔術は廃れ跡絶えてしまった」
「どうして?概念的存在も呼び出せるって事は神様だって呼び出せるって事でしょう?そんな強大な魔術が廃れるなんて思えないけど」
「その答えは単純だ、誰もまともに成功した事がないからだ」
「「「え?」」」
思わず声が重なる、エルフォードはその理由を話し始めた。
「まず別世界の存在を呼ぶ方法だが…これは発動するには文字通り膨大な魔力が必要だ、それこそこの魔大陸の魔力全てを集めなければならないほどのね」
「それは…確かに無理だな」
「更に言えば呼び出す存在を選べない、それだけの魔力と労力を使って呼び出したのがその世界の住民ならまだ良いが…途方もなく強大な魔物だったらどうなる?」
「…最悪ね、賭けにすらなってない魔術だわ」
「うむ、故に召喚魔術はもうひとつの概念的存在を受肉させて顕現させる方法が主流となった…フィフスとやらの術式もこの方法で書かれている」
「だがそれも成功させた者はいなかったんだろう?フィフスが失敗する可能性はあるんじゃないか?」
俺が希望的観測を口にするとエルフォードはゆっくりと首を横に振った。
「残念ながらフィフスが召喚魔術を成功させる確率は極めて高い」