144:かつての英雄
「私とロウドが生きていた時代の魔大陸はまだ流刑地として扱われていた時代だった」
「流刑地…」
「グランクルズという国が出来る直前の頃だったからね、当時は追放された者やその子孫達が幾つかの街や村を作っていたんだがこの地は日夜魔物に襲われて畑は幾度も荒らされ人が死ぬのは日常茶飯事だった…。
ましてや追放される大半はそれだけの事をした悪党だ、治安も良いとは言えなかった」
エルフォードが語る過去のグルシオ大陸は聞くだけでもどれだけ過酷だったかが分かる、アリア達も聞いていて難しい顔をしていた。
「それでもこの地で人が生きていけたのはダンジョンがあったからだ、冒険者がダンジョンで見つける魔道具はこの不毛の地でも人が暮らせるものへと変えていった」
「それが繁栄のきっかけになったのか」
「そう、そしてロウドと私が冒険者として活動したのもこの頃だった」
エルフォードはそう言うと水の一部を浮かせてふたつの像を形作る、それは若い時のエルフォードとロウドの様だった。
「私はかつてこの地に追放された魔術師の家系だった、その能力と知識を失伝する事なく私に受け継がれた事で冒険者として活躍できた。
…だが、ロウドの活躍はそれ以上だった」
像がロウドのみになるとその周囲に魔物の像が形作られる、ロウドの像は魔物達と戦い全てを倒していった。
「ロウドと会ったのはダンジョンでだった、何度か共に戦った事もあれば酒を酌み交わした事もあったよ」
エルフォードは昔を思い出す様に語る、眩しい時の時代を思い出す様に目を細めながら穏やかに。
「だが私や周囲の者達は、次第に彼に追いつけなくなってしまった…」
「…」
「ロウドはそれでも歩みを止める事はなかった、いつしかロウドがダンジョンの魔物を倒していき、その後に私や他の冒険者が調査や探索をするという形になっていったんだ」
「…ならロウドは一人でダンジョンに?」
「そうだね、そして私達が調査してる間にもロウドはダンジョンで戦い続けて街にいるよりダンジョンで魔物と戦っている時間の方が多くなっていた」
そう言うエルフォードの声には哀愁が込められている様に思える、そして悔いる様に続きを話した。
「人々はそんなロウドを賞賛した、恐ろしき魔物達を倒しダンジョンから富と発展をもたらす魔大陸の英雄と…魔物が跋扈するダンジョンの先駆者だとね」
「…ロウドはそれを煩わしく思ってる様な事を言っていたが」
「ああ、そして私達がレアドロップを手にし始めてグランクルズという国が生まれようとしていた時にロウドは“天へ挑んだ塔”に挑み…あのレアドロップを手に入れた」
それが全ての始まりだったとエルフォードは闇に沈んだ真実を語り始めた…。