143:異形
「アビスコード…伝説の魔法使いは魔物だったのか?」
「魔法使いか…久しい呼び名だ」
エルフォードを名乗る魔物は右手で顎を撫でる様な仕草をすると左手で指を振る。
すると目の前に人数分の石の椅子とT字型の石柱が現れる、シュリンはそのひとつに座りエイルシードは石柱に降りる。
「私の事やロウドの事、そして君達の事…話すには長くなるから座ると良い。
私が作ったもので良ければお茶でも出すが?」
「…お茶があるのか」
「上の森から採取した葉や果実から作ったものだ、人が飲んで大丈夫かは分からないがね」
「…あの、良ければ私が用意しますが」
セレナがおずおずと手を上げると俺とアリアは頷く、セレナがバックから人数分のカップと小さな鍋を用意してお茶の準備をしてる間にエルフォードはテーブルを作っていた。
「…あれ詠唱しないで土魔術使ってない?」
「…兄貴が無詠唱や詠唱を別の動作で置き換える研究してたがその類に思える」
「…フィリア姉さんが狂喜乱舞するくらい凄い技術の筈なのに」
なんにせよ目の前の魔物がエルフォードだというのは疑い様がなさそうだ。
―――――
「うむ…久しぶりに飲むが美味い」
エルフォードは紅茶が入ったカップを触手で取って飲む、その手には食糧として持ってきていたビスケットを摘まんでいた。
…ビスケットを食べる時に牙が並んだ口が耳下まで開いて頬張る姿は子供が見たら泣きそうな絵面だった。
シュリンはもそもそとドライフルーツを食べている、ここに来るまでの食糧は大分節約できていたから良いのだがこのままだと節約できた分がなくなるかも知れない。
「…そろそろ話しても良いか?」
「おっとすまないね、ちゃんとした茶を飲むのは随分久しぶりだから思わずはしゃいでしまった」
エルフォードはカップを戻すとコホンと咳払いをして俺達と向き合うと胸に突き刺さった剣に触れながら話し出した。
「まず言っておくと私は人間だ、正確には人間だったと言うのが正しいがね」
「…人間から魔物になった、という事か?」
「魔物になったというよりは融合したというべきだ、本来アビスコードとは私が見つけ契約していた魔物の名だ」
「…どうして魔物になった?それにその剣はロウドの剣だろう?何で貴方がそれに貫かれている?」
「そうしなければロウドを止める事は出来なかったからだ、この剣はその時に私を貫いたものだよ」
エルフォードは鎧の様な鱗を動かすと剣で貫かれた箇所を見せてくる、そこには黒い肌に少しだけ白くなり皹割れていた。
「この剣はロウドからしてみれば生え変わって抜け落ちた爪の様なものだ、だが込められた破壊の力は未だ剣に宿っている…私の魔力で満たしたこの空間から出ればやがて死に至るだろう」
「抜く事は出来ないのか?」
「封印の影響か私の一部と化してしまっていてね…無理に引き抜けば死ぬ」
「…貴方とロウドとの間に何があった?」
俺の問いにエルフォードは僅かに沈黙する、そして過去に思いを馳せる様に話し始めた。
「ロウドを封印したのはそうしなければ止められなかったからだ、世界の敵になろうとした彼をね…」