141:隠者の終の地
エイルシードの先導で着いたのは鬱蒼とした森だった、様々な形に枝分かれした木々の間に幾つかの道の様なものがあるがその道は時間が経つ度に変わり木々も少しずつだが絶えず変化するので対策なしに入れば出る事が出来なくなる。
深入りした愚者は永劫に彷徨う事になり、引き際を知る賢者のみが恩恵を得れる…それが“隠者の終の地”というダンジョンだった。
「実際に来るのは初めてだな」
「大丈夫、私が案内するからそれは使わなくていい」
森を見上げながら呟くシュリンが俺の手元にある魔石を見ながら告げる、食糧や消耗品を手分けして持つとシュリンの先導で森の中へと足を踏み入れる。
普通なら高価な魔道具を買うか魔大陸でも屈指の斥候でもいなければ入るのは自殺行為だがシュリンは迷わず歩を進めていく。
「…どうやって進んでいるんだ?」
「ん…風や草木が教えてくれるから?」
…俺の疑問にシュリンは首を傾げながら答えるが何故疑問符がつくのだろうか。
「エルフは通常では感知できない微細な魔力を感知する事ができます、その鋭敏な感覚によって大気や周囲の魔力の流れが分かるのです」
「常に反響探知を…いや、それ以上のものを行っているという事か」
「はい、そしてダンジョンがどれだけ広大で形を変えるのだとしてもその奥…中心へと流れる魔力をシュリンは感知しています」
「…凄いな」
「そうね、バレたら冒険者達がこぞって彼女をスカウトしにくるぐらいには…」
ダンジョンは常に変化する、最深部や大規模なダンジョンとなればその頻度はかなり高い。
高ランクの冒険者でも潜る度に構造が変わるダンジョンには最大の悩みだ、どんな方法にせよかかなりの労力かリソースを割かねばならない。
シュリンがいればそのリソースを最小限にできる、高ランクの冒険者ほど彼女の能力がどれだけ破格か理解できるだろう。
「止まって」
そうして歩いているとシュリンはエイルシードを手にして構える、少しして俺にもこちらに近づいてくる魔物の気配を感じ取れた。
「マッドエイプが二体か」
マッドエイプは森に現れる魔物の中でも強い部類に入る、縦横無尽に木々を動き回り桁外れの腕力から放たれる攻撃は常人なら一撃で肉塊に変わるだろう。
「大丈夫」
剣を構えて迎撃しようとするとシュリンがそう言って俺達を止める。
シュリンはエイルシードに生えている種をふたつ引き抜くと種は矢へと変わる、二本の矢をつがえて一呼吸置くと一瞬の動作で射つ。
矢は木々を潜り抜けてマッドエイプ達に刺さる、だが二体は矢が刺さったままこちらに向かってきた。
「もう終わり」
シュリンがそう言うとマッドエイプ達に刺さった矢から根が伸びて侵食していく、マッドエイプ達はその場で転がり回るがやがて二体共動かなくなり魔石へと変わった。
「…大した腕だ」
「弓なら誰にも負けない」
魔石を拾ったシュリンはそう言って先に進む、それからも最深部とは思えないペースで俺達は奥へと進んでいった。