14:次に向かうは
朝チュン
(や、やらかした…)
横ですやすやと寝息を立てるアリアを見て昨日の酒の酔いが一瞬で吹き飛ぶ、しばらく酔うまで酒を飲んでいなかったから自分の悪癖を忘れていた。
一年位前の事だ、先輩冒険者に誘われて娼館と併設されている酒場に行って飲んでいた、先輩が早々に相手を選んでからは一人で加減も分からず飲んで酔った俺は四人の娼婦を抱き潰してしまった。
幸か不幸か俺は酔っても記憶が残るタイプだ、朝になって酔いが覚めた俺は娼館の主人に「お若いですな」と苦笑されながら金貨を支払う事になり先輩冒険者からは「化物かお前は」と引かれた。
それ以来、酒は寝付きが悪い時に一杯飲む程度で酔うまで飲まなくなったが昨日は完全に飲み過ぎた、よりにもよって皇女に手を出してしまうなど責任取るには極刑以外ないだろう。
「う、ん…」
俺が頭を抱えているとアリアが瞼を擦りながら起き上がる、無防備な雰囲気を出しながらこちらを見るとピタリと動きが止まった。
「えっと…」
「へ?え、あっ、えぁ?…あ…」
アリアは俺に気付くと耳まで紅くしてシーツで肌を隠すと改めてこちらを見た。
「お…おはようございます?」
羞恥に染まりながらこちらを見る姿は昨日とは違い年相応の少女に見えた。
―――――
「いやぁ、初めてがこうなるのは予想してなかったなぁ」
「…すまない」
宿を出て冒険者ギルドにある酒場の一角に向き合って座る、折り合いをつけたのか普段の調子に戻ったアリアは微笑みながら話し始めた。
「ベルクって見かけによらずケダモノなのね、あんなに荒々しくされて今でも身体が少し痛むもの」
「うぐっ…」
「報酬の前払い…という事にしても良いけど、どうする?」
「…それで良いのか?」
「ベルクなら特別に、だけど私の純潔を奪ったからにはきっちりしてもらうけどね?」
「分かった、それで良い」
アリアがそれで良いと言うなら良いのだろう、結果として首が飛ばなくて済んだと考えれば悪くない。
「それで本題なんだけど…これからどうするの?」
「そうだな、ひとまずは依頼をこなしながらレアドロップしそうな魔物の情報を集め…」
思考を切り替えて話し始めようとすると頭の中に情報が流れ込んでくるかの様な感覚が起きる、そしてあの声が聞こえてきた。
「東の…火の洞」
「どうしたの?」
「少し待ってくれ」
鞄の中から周辺の地図を取り出してテーブルに広げる、地図には街やダンジョンの位置等を書き込んであり今いるウォークリアから東へと指を這わせる。
「これだ」
ひとつのダンジョンで指を止める、アリアも覗き込む様に指指した先を見てダンジョンの名前を口にした。
「“情欲の火口”…確か大規模一歩手前の火山のダンジョンだったよね?」
「あぁ、ここにレアドロップする魔物がいる」
「どうして分かるの?」
「こいつがそう言ってる」
腰に差した武器を軽く叩く、アリアはそれで察した様で頷くのを確認して次へと話を進める。
「ひとまずダンジョンの情報と準備だな、行った事はあるか?」
「あるけど随分と前だから道具は買い直した方が早いかな、今から買いに行かない?」
「そうだな、今日明日は準備とダンジョンをどう進むかを決めるか」
そうしてアリアと共にダンジョンの情報を元に進め方を話し合い必要なものを買いに行ったんだが…。
「同じ宿なのか?」
「そうよ?というか貴方と同じ部屋だし」
「…なに?」
「昨日一緒に泊まったじゃない」
「それはそうだが…」
「今更でしょ?昨日は払ってもらったけど自分の宿代くらいは出すわよ、それに…」
アリアはそこで区切ると俺を引き寄せて耳元で囁いた。
「…私、これでも初めてには憧れを抱いていたのよ?」
それは余りにも甘美な声と言葉で。
「きっちりしてもらうって言ったでしょ?初めてが酒の勢いでなんてイヤだから、今日はちゃんとして…ね?」
それに抗えるほどの理性はなかった…。
―――――
(寝ちゃった…)
隣で寝息を立てるベルクを見ながら指で頬をつついてみる、こうして見ると目付きは鋭いが整った容姿をしているなと改めて思う。
それでいて身体は無駄を一切削ぎ落として必要な筋肉だけをつけた様な理想的な身体をしている、触れてみると軟らかさと堅さが同居した様な心地良い感触がした。
「狂戦士みたいに荒々しいだけかと思ったら優しくも出来るのね」
そんなベルクを不思議に思いながら考えるのは彼の経緯だ、今更ながらベルクが過去を捨てて冒険者という危険な道を選んだのか気になる。
兄のバドルは知っている、まだ二十代という若さで権勢を塗り替えベルガ王国の中枢にいるのだからその能力や才覚は怪物と称されるのも頷ける。
対してベルクの評価は凡庸だったがそれが信じられない、我流で鍛えたというあの戦い方を見ればベルクの戦闘センスもまた怪物と称されるくらいのものだと言える。
「私の国ならどの騎士団も貴方を欲しがるわ」
そう呟いてはたと思い出す、ベルガ王国は魔術が主体となっている、武術は基本的に学園を卒業して騎士団等の役職に就く者が本格的に教わると聞いていた。
ベルガ王国の魔術は優れていると言えるが学生が習う武術は格式ばった実践向きと言えるものではないと内心思っていた。
(ベルクの才能は格式ばった武術では活かせないんだもの、評価は受けにくかったでしょうね)
自分のと比べて硬い髪に触れながら思う、ベルクが国を出たお蔭で彼と出会えたのは幸運だった。
正直ここまでしようとは思ってなかったが結果的には好きでもない誰かに奪われるよりは気になり始めたベルクに捧げて良かったかも知れない。
「改めてよろしくね、ベルク」
そっと呟きながら私も眠りについた…。