138:幻想の一族
帽子の下にあるのは黒い髪に褐色の肌をした少女だった、あどけなさが残る顔には琥珀に輝く瞳が俺を捉えていた。
「…君は何者だ?」
腰の剣に手をかけないでいつでも武器を出せる態勢で問い掛ける、すると少女の背負う弓が微かに輝いた。
「落ち着いて欲しい、私達に敵対の意志はない」
少女とは別の声が聞こえてくる、アリア達は構えようとするがルスクディーテが僅かに焔を出して制する。
「ルスクディーテ?」
「落ち着くがよいアリア、あの娘は我等と似た関係の様だ」
互いに止められた事と町中である事もあって警戒を少しだけ緩める、すると声が再び聞こえてきた。
「カオスクルセイダーの所有者よ、君に話がある」
「話?」
「ロウド=ソリタス、奴がこの時代に現れた理由を知る者がいる」
「っ!?」
「それも含めて話がしたい、落ち着いた場所で話せないだろうか?」
「…分かった」
俺は少しだけ逡巡すると少女を連れて宿に向かった。
―――――
部屋につくと少女は迷いなくベッドに座る、すると先程の声がしてきた。
「まずは自己紹介からしよう、と言ってもそちらの娘は見えている様ではあるが」
直後に少女の背負う弓が輝いて形がほどけていくと後ろに人間大の鷲が現れた、体の至るところに草花や樹が羽毛や角の様に生えておりまるで芸術家が手がけたかの様な美しい姿の鷲だった。
「私はエイルシード、こちらは…」
「…シュリン」
少女はそう呟いて帽子を取る、無造作に伸びた髪の隙間から長く尖った耳に目を見開くがひとまずは俺達も自己紹介をする。
「ベルクだ」
「アリアよ、こっちはルスクディーテ」
「セレナです、こちらはトゥルーティアー」
「…今更ながらこうして同胞が一同に集う時が来るとは」
「それは同意じゃな、ましてや幻想種などとうに滅んだと思っていたわ」
エイルシードの呟きにルスクディーテが顎に手を添えながらシュリンを見る。
「幻想種…やはりエルフなのか?」
エルフとは太古に存在したと言われる伝説の種族だ、人間より膨大な魔力と優れた感覚を有しており不老の存在だと伝わっている。
「シュリンの一族はそう呼ばれています、私も彼女以外の一族がどうなったかは分かりませんが…」
「分からない?」
「私もシュリンも長い時を封印され眠っていたのです、目覚めたのは十年ほど前になるでしょうか」
「封印…」
「私達の事、ロウド=ソリタスの事、そして私達が貴方を探していた事…話が長くなってしまいますが良いですか?」
「構わない、情報は多いに越した事はない」
俺がそう答えるとエイルシードは頷く様な仕草をすると話し始めた。
「私達は君達に会って貰いたい者がいる、その者は私達を目覚めさせた者であり…ロウド=ソリタスを封印していた者だ」