137:琥珀色の瞳
部屋を後にするとアリア達も隣の部屋から出てきた。
「セレナ、どうだった?」
「三人共水晶を埋め込まれたり何か細工がされてたりはしていません、操られている可能性は低いかと」
「それとこれが塔内に書かれていた術式の写し」
アリアから手渡された紙束に目を通す、書かれているのは術式ではあるのだが様々な箇所に古代文字や見覚えのない方式で書かれており解読は出来そうになかった。
「これは俺も分からないな」
「そうよね、古代文字を用いた術式なんて聞いた事ないし…フィリア姉さんなら解析できるかも知れないけど」
「一応複写して送るが解析する間に奴等が動くだろうな…」
ここからベルガ王国まで最速便を使っても十日は確実に掛かる、その間に奴等が準備を終えて何かしでかすのは目に見えていた。
「事態は予想以上に深刻だね…最深部は立ち入り制限を掛けるのは当然としてガイロンを倒すほどの存在をどうするべきか…」
ギルドマスターが険しい表情を浮かべながらこれからの動きを思案する、俺もフィリアに複写を送る為に動く事にした。
「ギルドマスター、ひとまず俺達は明日にでも動ける様に準備しておきます」
「そうしてくれ、私の方も緊急事態として白銀級以上の者全てに招集を掛けよう」
ギルドマスターと別れてすぐに俺達は三人がかりで術式の複写を行う。
複写を終えてフィリアに送った頃には日が沈みかけていた…。
―――――
一通り準備を終えて三人で町を歩く、アリアが首を回しながらため息をついた。
「はあ…姉さんの通信水晶が使えたら良かったのに」
「仕方ないな、海には中継に使える魔道具が常にある訳じゃない」
フィリアの通信水晶は周囲の魔道具を一時的にジャックして中継する機能を付加するものだ、道に魔物避けの魔道具等が設置されたりしている陸はともかく海では船に積まれた魔道具でも範囲内になければ届かない。
そんな事を話しながら歩いていると視界の端にあるものが映る、それと同時に腰に差したカオスクルセイダーが反応した。
振り返るとアリアとセレナも気付いたらしく頷く、再び視線を戻すとそこには弓を背負い帽子を被った少女が冒険者に絡まれていた。
「可愛い顔に似合わずゴツい弓持ってんな嬢ちゃん、冒険者になるなら俺の仲間にしてやるよ…手取り足取り教えてやるぜえ?」
赤ら顔で絡む戦士に仲間であろう者達も笑う、酔っているのもあるのだろうがあの感じからして元々素行が悪いのだろう。
なんとなく嫌な予感がして止めようとすると少女と目が合う、琥珀色に輝く瞳に俺を映した少女は絡んできた男の額に向けて指で輪を作った。
押さえられた指が弾ける様にほどけて男の額に当たる、いわゆるデコピンされた男は鞭を打つ様な音と共に仰け反って倒れた。
さっきまで笑っていた仲間達も突然の事に呆然としてる間に懐に潜り込んだ少女の鋭い拳を鳩尾に打たれて悶絶しながら倒れた。
少女は埃を払う様に手を叩くとしっかりとした足取りでこちらに近づく、そして再び琥珀色の瞳で俺を見上げてきた。
「…見つけた、カオスクルセイダー」
その少女の背負う弓からはレアドロップの気配が感じ取れた…。