135:噂
「久しぶりと言うべきだろうねベルク君、いや今はベルク卿とお呼びすべきかな?」
ギルド職員の案内で奥に入るとギルドマスターが変わらず温厚な笑みを浮かべながら迎えてくれた。
「お久しぶりですギルドマスター、必要以上に身分を持ち出す気はないので前の様に接してくれませんか?」
「ふふ、変わりない様で安心したよ…この数ヶ月で強さと身分を得て驕りがないのは他の者達にも見習って欲しいくらいだ」
「…ありがとうございます」
相変わらず真っ正面から賛辞を送ってくる、そういう所も変わってないなと思いながら答えるとギルドマスターは少しだけ意地の悪い笑みを浮かべる。
「それに君の噂はここまで届いたからねぇ」
「…噂?」
「有名なのを挙げると…帝国の皇帝を口説き落として皇族の婿入りになった、聖女を我が物にする為に教国を滅ぼした、王国の反乱では兵士達を無理矢理戦わせて反乱に加わった者は皆殺しにしたとかだねぇ」
「歪曲され過ぎだろ!?」
他にも色々流れてるよ、と笑いながら言われた事に思わず膝をつきたくなる…余りに無茶苦茶な噂だが所々に事実があるから否定しづらいのが質が悪かった。
「グランクルズでは君の噂で持ち切りだよ、悪名も含めて人気というが君の活躍は冒険者達の間では特に人気だ」
「…今の話で人気になる要素ありましたか?」
「あるとも、一人の冒険者が国を左右する存在にまで成り上がったんだ…一攫千金を求める冒険者からすれば憧れて当然だろう」
「…俺の事は後にして本題にいきましょう」
俺が言うとギルドマスターは表情を戻して頷く、そして事の概要を話し始めた。
「事の起こりはダンジョンの再調査からだった、君から送られたレアドロップの情報を白銀級以上の冒険者達に共有して極秘の依頼として魔大陸のダンジョンを今一度再調査する様にしたんだ。
アリア君の様に隠された階層に特殊な魔物がいる可能性があるからね」
結果は芳しくなかったがね、とギルドマスターは苦笑いを浮かべるが再び厳しい表情になりながら続きを話し始めた。
「だがその頃から…最深部でシャドウストーカーを始めとして魔物の出現が増えたんだよ」
「…シャドウストーカーだけじゃないのですか?」
「ああ、本来であればより深い階層に出る筈の魔物が姿を見せる様になってね…最深部に行けるのは信用できる冒険者だけだし報告も複数あるからはぐれという可能性もない」
「…つかぬ事を聞きますが魔物達の変わった特徴はありますか?胸に水晶があったり倒しても魔石にならなかったとか」
「ふむ…?報告書には全て目を通したけどそういったのはなかったね」
ギルドマスターの話を聞いて思案する、フィフスはシャドウストーカーを生み出せるが魔物達は奴の造った水晶で変異した者しか操れない筈だ。
「まあそういう事があってね、もしや“黄昏の剣墓”の様に魔物災害が起こる可能性があると考えた私は“天狼の爪牙”に依頼して調査をしてもらったんだが…」
「そのまま消息不明に?」
「いや、実は二日前に戻って来たんだ…かなり無理をしたのか門の前で意識を失って今は目覚めるのを待っている状態だ」
「無事だったという事ですか」
「ああ…リーダーのガイロンは殺されたとホルアスが意識を失う前に告げられたがね」
「ガイロンさんが…」
ガイロンと言えば“双牙”の渾名を持つ剣士だ、必殺の威力を持つ双頭剣とその人格は多くのダンジョンから生還し様々な魔物を討伐してきた実績が証明している。
そんなガイロン率いるパーティが遅れを取る相手など…。
「ギルドマスター!」
俺が考えていると職員が慌てた様子で扉を開けて入ってくる、俺達に気付く様子もなく職員は告げた。
「ホルアスさん達の意識が戻りました!至急報告したい事があるから来て欲しいと!」
「何!?」
その報告にギルドマスターだけでなく俺達も治療院へと向かった。