134:再びウォークリアへ
魔大陸に着くと宿に一泊してからガルマを駆使してウォークリアまでまっすぐに向かう、それでも広大な魔大陸はガルマの脚を以てしても一週間以上掛かる道のりだったがアリアと二人の時は二十日以上掛かっていた事を考えると相当な時間を短縮できていた。
「…この町も久しぶりに感じるな」
「そうね、時間にしたら3ヶ月ぐらいなのに懐かしく感じるわ」
ウォークリアの門を見上げながら感慨深く呟く、あの指名依頼を受けてからの日々はそれまでとは比べものにならないくらい濃密になった。
「あ、ベルクさんお久しぶりです」
門まで行くと顔馴染みの門兵が声を掛けてくれる、入れ替わりが激しい冒険者の顔をちゃんと覚えてるのは彼くらいだろう。
「久しぶりだなエナム、もう忘れられたと思ったぞ」
「ご冗談を、ウォークリアで白銀級にまでなった人を忘れたりしませんよ…それにギルドマスターから貴方が来たらすぐに知らせてくれと頼まれてまして」
「ギルドマスターから?」
「ええ、今呼んで来ますんで詰所で待ってくてれませんか?」
「分かった、馬車を止めても大丈夫か?」
「ええ、横にでも止めておいてください」
言われた通り詰所で待つ事にする、馬車からアリアとセレナが降りて詰所に入ると詰所の事務員や休憩していた門兵が二人に目を奪われていた。
(…フードでも被せた方が良かったか)
今でこそ慣れたが二人共絶世の美女と謡われる容姿の持ち主だ、男が多い詰所では好奇の視線を集めるのは当然だった。
「やっぱり注目集めちゃうわね」
「そうですね、ここではもう仕方ないですが町を歩く時はフードをした方が良いでしょうか」
「うーん、ウォークリアというか魔大陸全体の風潮と言えるけど冒険者って女ならひとまず声を掛けるのよね」
アリアはそう呟くと閃いたとでも言う様な表情を浮かべて。
「こうすれば良いのよ」
俺の腕に抱きついてきた。
「ほら、セレナも」
「うーん、流石に両腕が塞いでしまうのは申し訳ないからこれで」
そう言ってセレナは服の裾を摘まんでくる、今の俺は端から見れば美女二人を侍らせてる様にしか見えないだろう。
「アリア?」
「これなら余程の馬鹿じゃない限りは話し掛けようなんて思わないでしょ?」
「それはそうだが…ここでやる必要はあったか?」
すれ違ったりこちらに向けられる視線に妬みやらなんやらが混じったのを感じる、それに悦を感じる者はいるだろうが俺には居心地の悪さしか感じない。
少ししてギルドの職員を連れたエナムが俺を見るとやや苦笑いを浮かべた。
「ベルクさん、仲が良いのは分かりますがここじゃ控えてください。
ここじゃ男やもめが多いから目の毒です」
私は嫁さんがいますけどねと笑いながら言われて些か申し訳なくなる。
「噂には聞いてましたが、本当だったんですね…」
ギルドの職員がしみじみと見ながら呟いた言葉にどんな噂が立ってんだと聞きたくなった…。
魔大陸最深部からウォークリアへと続く道を一人歩く者がいた。
「…うん、大丈夫、疲れてない」
静かな声で誰かに話しかける様に呟く、その背には鳳を象る樹木で造られた弓を背負っていた。
「町に行くのは初めてだけど…父様から教えてもらってるし貴方がいるから大丈夫」
目深に被った帽子を上げて遠くに見えるウォークリアの町を瞳に捉える。
「必ず見つける、カオスクルセイダーを」
その瞳は琥珀の様に輝いていた…。