13:家出人同士
「…皇女?」
想定外の告白に自分でも間抜けな声が出る、アリアは悪戯めいた笑みを浮かべながら頷いた。
「ええ、1年くらい前に家出したから今はただのアリアだけどね」
「…なんでそこまで明かした?」
「これから話す事を信じて貰いやすくする為かな、ミルドレアの紅獅子伝説は知ってる?」
「…“建国武帝”初代ミルドレアの話か」
かつての婚約者がミルドレアと関わる家だったから勉強した中にあった話だ、当時幾多の小国に分かれ争っていた地を紅の獅子を伴った少年…後のミルドレア帝が平定したというものだ。
「これは皇族に伝わる話なんだけどミルドレア帝が伴った紅獅子はレアドロップ…私達は皇器って呼んでるものだったんだよね」
「な…」
「紅獣咆剣“ジャスティレオン”って言ってね、ミルドレアはそれを研究したり当時の手記から情報を得たりしたの、その成果が強い力と人間に匹敵する知性や意思を持つ魔物は自身を倒した相手を認めた時に武器になる可能性が高いとされてたわ、そして君が私の前でそれが正しかったって証明してみせたしね」
言われて思い当たる節はある、あの魔物…カオスクルセイダーは明確な意思を持っていた、決闘の作法に複数の魔物を出せるのにも関わらず一騎討ちに拘る姿勢、更には魔術もこちらが使ってから使うという後出しの姿勢だった。
正道を貫こうとする騎士、それが戦っていた時の印象だった。
「一国が実物を研究した成果と考察か、確かに信用できるものだな」
「でしょ?」
「…だが明かしても良いものなのか?どう考えても国家機密に値する情報だと思えるが」
「んー…まあ、信頼して欲しいっていうのもあるし、君が言いふらす人には見えないからっていうのもあるし、後は私だけ出自を知ってるのはフェアじゃないってのもあるかな?」
「なに?」
「結構話題になったんだよ、神童の逆鱗だった弟セルク=グラントスの失踪によるベルガ王国の内部変革ってね」
伝えられた情報量の多さに一瞬だけ頭が真っ白になった…。
―――――
「…何故俺がセルクだと?」
色々と聞きたいがまずはアリアが俺をセルクだと見抜いた事に疑問を抱いた。
今の姿は当時と違い伸ばしていた黒髪を適当に短くしており、身なりも飾り気のない服の上から部位鎧や武器を身につけている、客観的にも貴族の子には見えないし、貴族の子が開拓の最前線で冒険者をしているなど普通は考えないだろう。
「んー、君が失踪した時に人相書きがミルドレアにも届いてね、私も城を脱け出して街に行ってた時にそれを見たんだよね」
さらりと日常的に城を抜け出していた事を明かしながらアリアは話し出した。
「2年前の人相書きなんて良く覚えてたな」
「私もその時はあまり気にしてなかったよ、ただその後に起きた事の衝撃が大きくてその引き金になった君の名前や人相は結構有名になったんだよ」
「何が起きたんだ?」
「ベルガ王国の学園教師や関係者の不正が明らかになって失脚したり人事異動が相次いだのよ、中には要職にいた貴族もいてそんな事があればガタつく筈なのに滞りなく成したのがバドル=グラントスなの」
それを聞いて思わず唾を呑む、兄貴ならば確かにそれくらい出来るだろうが俺が家を出た後にそんな事をしているとは想像もしていなかった。
「そういう事情もあって君の事は印象に残ってたんだよね、人相書きも凄く似てたし」
「…そうか」
「あー…まあ、とりあえずはさ、そういうのもあって気が合うなって思ったの、お互い事情はあれど家出した者同士っていうのも中々ないでしょ?」
アリアは俺の空気が重くなったのを察したのか努めて明るくしようとする、店員を呼ぶと二人分の酒を頼むと運ばれてきたジョッキのひとつを渡してきた。
「とりあえず飲みましょう!パーティ結成記念とレアドロップGETを願ってさ!」
「…そうだな」
考えなきゃならない事や思う事はあるが今はよそう、得た情報が濃密過ぎて混乱した頭じゃまともな思考は出来ないと判断してジョッキを手にした。
「それじゃ乾杯!」
「乾杯」
ジョッキをぶつけて呷る、ひとまず考えるのは明日からにしようと久しぶりに酒を飲んだ…。
翌朝、目を覚ますと裸のアリアが同じベッドで寝ていた。
ボカさず言えばヤりました