128:静と動
光が収まるとセレナの姿が変わっていた、純白の衣に身を包んだセレナの周囲を透き通った水が剣や盾を象って周囲に浮かび背中には美しく煌めく水の翼があった。
天使が降り立ったと錯覚するほど美しい姿に思わず息を呑む、だがその間にも二人は互いの力をぶつけ合おうとしていた。
紅蓮の翼を翻したアリアが尾を引いて急降下する、手にする剣に宿る焔は紅から蒼へ…そして白へと変わっていく度に凄まじい力が放出され輝いた。
「これが今の…全身全霊!」
迫るアリアを迎え撃つ様にセレナも杖を構える、浮かんでいた水を始めとしてセレナの頭上に集まっていき魔方陣にも似た盾が幾重にも現れた。
「“真なる破魔の水鏡”!」
詠唱と共に盾がひとつになって巨大で複雑なものへとなる、焔の光に照らされた水の盾は神々しさすら感じさせた。
アリアの焔剣とセレナの水盾が衝突する、純粋な力と力の衝突に周囲に熱波と衝撃波が広がった。
俺とラクルはすぐさまフィリア達の前に立ち兄貴が咄嗟に結界を発動する事で俺達と装置は無事だったが目の前の光景にその場にいた全員が目を奪われた。
…それはまるで落ちてきた太陽を押し戻そうとしているかの様だった、凄まじい勢いで大気を焼け焦がすアリアの焔剣とそれを受け止め弾き返さんとするセレナの水盾が拮抗していた。
だがその拮抗も長くは続かなかった、少しして水盾の焔剣を受け止めている箇所に亀裂が入っていった。
「セレナ殿の方が押されている?」
「…いや」
ラクルの言葉に首を横に降りながらアリアを示す、そこにはアリアの焔が白から蒼へと戻り始めていた。
「アリアの焔も勢いが失くなってきている…アリアが盾を破るかセレナが防ぎ切るかどちらに転んでもおかしくない」
水盾の亀裂が徐々に広がっていくがアリアの焔も完全に蒼へと戻っていた、それでも凄まじい力の拡散は収まらず衝突で発せられる光にその場にいたほとんどの者は目を覆っていた。
「はああああああああああっ!!」
「くう、ああああああああっ!!」
アリアとセレナの叫びが木霊すると水盾の亀裂が全体に回るが焔も蒼から紅へと戻りかけている。
互いに限界までぶつかっていたふたつの力は砕けた音が響く事で終わりを迎えた。
セレナの水盾が割れ砕けて霧散していくと展開が解けてセレナはぺたりと座り込む、アリアは剣を振り下ろした体勢で着地した直後に展開が解くと大の字になって倒れてしまった。
「…やっぱり凄いね、アリアは」
「…勝ったなんて胸を張って言えないわ、今ちょっと動けそうにないもの」
ついさっきまで激しくぶつかり合っていたのにそう言って笑い合う二人は実に絵になる光景だった。
…周囲が焼け焦げた隕石が堕ちた跡の様になってなければ。
「うーん、これから試す場所はちゃんと検討しないといけないね…」
兄貴がそんな事を言いながら苦笑するのを見て些か申し訳ない気持ちになる、そしてこれが起きる状況を作り出した張本人は…。
「凄い凄い凄い凄いやっぱり火力に関してはジャスティレオンの上をいってる?剣に焔を集中させる事で熱と破壊力を一点に集める事も出来るならその逆もきっとトゥルーティアーも…」
大分ヤバい人と化していた…。