126:白星
闇を纏って疾駆する俺を迎え討とうと横薙ぎに振るわれた斬馬刀を跳躍して避ける、だが再び返す刀で刃は迫ってきた。
「“風跳”」
そこから更に跳躍してラクルの真上に到達すると宙を翻りながら槌矛を叩きつける。
「くうっ!?」
衝撃で揺らいだ隙に背後に着地するとマントから数十もの武器を放出する、ラクルは咄嗟に重量を増加させる事で防いだが放出した武器の中から手にした戦槌に風を纏わせながら脇腹に打ち込むと振動が鎧を通してラクルの体に伝わった。
「ぐっ!?これは…」
「風鳴衝波の応用だ」
「くっ…だがまだだ!」
戦槌の一撃を踏ん張って耐えたラクルは戦槌を掴んで片腕で斬馬刀を振り下ろしてくる、戦槌を手放して避けるとラクルはすぐさま構え直して刺突を放ってきた。
迫る切先がぶつかる瞬間に体を僅かに捻る事で鎧の上を滑らせる様にして逸らす、脇の下を通る斬馬刀の刀身を弾きながら突き進んでラクルの兜に頭突きを放った。
「ぐあ!」
「もう…一発!」
「負ける…かあ!」
仰け反ったラクルの兜を掴んで再び頭突きを放とうとするとラクルもすぐさま額を突き出して兜が鐘を突いた様な音を響かせながら衝突する。
岩が頭にぶつかった様な衝撃に歯を食い縛りながらも再び風を使って跳び上がり背後に回ると即座に左腕を掴んで極める。
そして肘を逆に極めたまま腰を落とした。
「うぐぅ!く、組み技!?」
「型からは外れてるがな」
ラクルは確かにザンマを使えている、だが攻撃された時に咄嗟に体を軽くして避けるのではなく重く硬くなって受け止める癖が出来ていた。
ガンザは攻撃によって避けるか受けるかを見極めていたがラクルはその癖によって動きが鈍くなっている、だからこそ“風鳴衝波”を受けたり発動した後に動きが鈍って組み技を受けやすくなってしまっていた。
ラクルが腕を振りほどこうとした瞬間に脚を絡ませて姿勢を崩すと右肩を押さえながら空いた腕をラクルの首に廻して軽く締め上げる。
片膝をついて俺を背負う様な形になったラクルは左腕はさっきの組み技で今は使い物にならず、右腕も押さえられて自由に動かせない。
俺がやろうと思えばこのままラクルを締め落とす事が出来る状態だった。
「続けるか?」
「…いや、俺の負けだ」
ラクルがはっきりと言い切ると俺は離れる、互いに鎧を解除するとラクルは膝をついて息を吐いた。
「大丈夫か?」
「ああ、あれ以上は鎧を維持できなかったし…例え維持できていたとしてもどうしようもなかったよ」
ラクルは息を整えて立ち上がると額に汗を浮かべながらもすっきりとした様な笑みを浮かべる、俺も釣られる様に笑って肩を貸した。
「初白星、だな」
「ああ、完敗だ」
こうして俺は二年越しの勝負でようやくラクルに勝つ事ができた…。