123:不滅の影(???side)
「クソ!クソ!クソ!」
ベルガ王国の端、人が立ち寄らない森で薄汚れた姿で水晶が嵌められた武器を抱えた男が踞っていた。
「こんな筈じゃなかった!俺達の正しさを証明する為の力を手にしたっていうのに!?」
男は公爵邸での戦いにいた一人だった、だがベルク達との圧倒的な力の差を目の当たりにして早々に逃げていたお陰で掃討から生き残っていた。
「セルク=グラントス!奴だ、奴のせいでこんな目に…!」
屈辱だった、自分より劣っていた筈なのに力も、地位も、女も手にしているのに自分は全てを失ってこんな惨めな状況に陥っている理不尽さに腹が立った。
「いや…まだ俺にはこれがある」
手にした武器を見ながら呟く、あの商人から渡された水晶から出来た自分だけの力…これがあればまだ生き残れる目はある。
「食い物も服も持ってる者から手に入れれば良い…俺は貴族なんだ、民から徴収する事は正しい行いだ」
男はそう呟きながら歩き出した…。
水晶から影が溢れ出た。
「え?」
影は幾多もの蛇の様に男の体に絡みついていく、そして体の至るところから入り込んでいった。
「がっ!?ごぐっ!?ぶげえっっっ!?」
目から、口から、耳から、至るところから影は男の内へと侵入していき男の意識は闇に沈んでいく。
(イヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだイヤだ死にたくない!)
自分を襲う現象と闇に沈んでいく感覚に男は心の中で必死に叫ぶが影はそんなものは意に介さず侵入し続ける。
そして男の意識が完全に消えると…。
「焼き殺されるのは初めてですねえ…」
フードを被ったフィフスがその場に立っていた。
「エボルで死ぬのは慣れていますがあれは中々にキツかったですね、人間とはつくづくこちらの予想を超えてきますねえ」
自らの身に起きた事を他人事の様に考えながらフィフスは足下に転がる男が大事に抱えていた武器を見る。
「この男で何人目でしたかねえ…五人目からは名前を変えるのも面倒になってしまいましたが…まあ今更変える必要もないですね」
そう呟きながら足下の武器を踏み砕いた。
「これで帝国は王国と教国というお荷物を抱える状態、普段は目を光らせている魔大陸に何があっても介入する力は残ってないでしょう…出来ればあの者達を潰しておきたかったですが出来ないとあらば固執するのも良くない」
フィフスは黒い杖を手に歩く、蠢く影を従えて…。
「器も門も鍵もこれで揃いました…もうすぐ、もうすぐ私は取り戻せるのです」
フィフスは呟く、長年の願いを目前にした求道者の如く…。
「こんな欠片などではなく、本当の力と姿を…」
零落した己を嫌悪する何かの如く…。
コミカライズや年末の色々がありまして次章は来月から投稿していきます。
些か早いですが良い御年を(*^^*)