121:父親との再会
我が家…なのではあるがはっきり言ってこの家で過ごした記憶は大分薄い。
王国で生きてきた十五年より国を出てからの二年間の方が…特にここ最近の出来事が強すぎて今更二の足を踏むほどではなくなっていた。
兄貴と一緒に館に入ると集まった使用人達が一斉に頭を下げて出迎える、中心に年配の執事…確かヘイマンだったかが深く頭を下げていた。
「お帰りなさいませ、バドル様、セルク様」
「ただいま、だけど名前を間違えてはいけないよ」
「…!失礼しましたベルク様」
ヘイマンは俺に向き直って頭を下げてくる、使用人達も頭を下げた態勢のまま動かない。
…出来損ないと見ていた奴が帝国の称号騎士になって更には王国の危機を退けるだけの力を手にして戻ってきたのだ、身に覚えのある奴等は俺が報復するんじゃないかとでも思ってるんだろう。
ラティナの時の様に今更蒸し返すつもりはないし、あの時は帝国騎士の立場もあってああいう言い方をしたがこの場でそれをする必要もない。
「お前等にどう呼ばれてどう思われようがどうでもいい、今更謝罪も後悔もやられたって迷惑なだけだから止めろ」
俺はそう言って少しだけ殺気を放つと使用人達は一斉に顔をひきつらせて怯える、それを見て些か子供みたいな真似をしてしまったと自己嫌悪する。
「悪い、行こう兄貴」
「ああ、皆下がってくれ」
使用人達は一礼してその場を後にする、ヘイマンは「こちらです」と言って俺達を書斎へ案内する。
「…少しだけ意趣返しのつもりだったがやりすぎたかな?」
「うーん…正直あれは戦闘経験のない人達には強すぎるかもね」
兄貴が苦笑いしながら伝えられた事に思わず頭を掻く、そんな事を話しながら歩いていると書斎の前に着いた。
「セルク、大丈夫かい?」
「…ああ」
少しだけ息を整えてドアをノックする、中から「入ってくれ」というあの闇の中で聞いた声よりも張りのない声で答えが帰ってきた。
ドアを開けると紙とインクの匂いと共に視界に入った人物に思わず目を細める。
最後に会った時の親父はまだ茶色い髪を整えて厳格な雰囲気と毅然とした立ち姿が印象的な人だった。
「セルク…」
だが今は白髪やシワが随分と増えており僅か二年の間に十年くらい一気に老け込んだ様に見えた…。